青空の下を走るだけで心が軽くなる理由|脳科学が教えてくれたこと

大人・シニア

「今日は気持ちいいなぁ。」

梅雨とは思えない青空が広がった朝、そんな気分になりました。

午前は予定もなかったので、久しぶりにバイクを引っ張り出し、国道2号線を須磨から垂水までゆっくり走ることにしました。

海は穏やかで、潮風が心地よく吹いています。潮の香りを感じながら、少しペダルを踏み込む。急ぐ理由もありませんし、誰かと競争するわけでもありません。ただ、自分の好きな速度で走るだけです。

不思議なことに、走り始めて10分ほどすると、頭の中にあった仕事やブログのこと、細かな心配事が少しずつ薄れていきました。

「あぁ、気持ちいい。」

家に帰る頃には、体は少し疲れているのに、心は驚くほど軽くなっていました。

なぜ、身体を動かすとこんな気分になるのでしょう。

いや、身体を動かしたことだけではなかったかもしれません。

青空が広がり、海が見える。潮風が顔に当たり、潮の香りがする。そして、自分の好きな速度でペダルをこぐ。

いろいろな心地よさが重なった朝でした。

そのうえで調べてみると、身体を動かすこと自体にも、気分や脳に関わるさまざまな変化が起きていることが分かってきました。

身体を動かすと、気分まで変わる

運動したあと、「気持ちよかった」「スッキリした」と感じることがあります。

その背景では、身体の中でさまざまな変化が起きています。

運動時の心地よさといえば、以前は「ランナーズハイ」とともにエンドルフィンがよく取り上げられていました。近年では、エンドカンナビノイドという、私たちの体内でつくられる物質も研究されています。

ランニングやサイクリングなど、一回の運動の前後を調べた研究でも、運動後に血液中のエンドカンナビノイドが増えることが報告されています。

身体を動かしたときの爽快感には、気分だけではなく、身体の中で実際に起こっている変化も関わっている。

そう考えると、「あぁ、気持ちいい」と感じながらペダルをこいでいた時間が、ちょっと違って見えてきます。

ただ、あの日の心地よさは、それだけではなかったでしょう。

海を見て、潮風を感じ、青空の下を走る。

運動も、景色も、風も、全部ひっくるめて気持ちよかった。

私は、それでいいような気がします。

オヤジになって、運動の楽しみ方が変わった

若い頃は、スポーツといえば勝ち負けがつきものでした。

私も学生時代は運動部。厳しい練習の中で技術や体力を磨いてきました。試合に勝てばうれしいし、負ければ悔しい。その経験は今でも人生の財産です。

でも、オヤジになった今、運動に求めるものは少し変わりました。

「今日も気持ちよかった。」

その一言で十分なのです。

「健康のために運動しなければ」と考えるより、「海を見に行こう」「今日は天気がいいから、ちょっと走ろう」と思う方が、私には合っています。

長く運動と付き合ってきて、今の私がたどり着いた楽しみ方です。

誰かと競わなくてもいい。記録を更新しなくてもいい。

身体を動かしたあと、

「また行きたいな」

と思えたら、それでええやん。

最近はそう思っています。

身体を動かすことは、脳にも届いている

運動と脳の関係を調べていると、BDNF(脳由来神経栄養因子)という名前が出てきます。

BDNFは、神経細胞の働きや脳の可塑性に関わるたんぱく質です。

健康な成人を対象にした55の研究をまとめたメタ解析では、一回の運動後でも、血液中のBDNFが増えることが報告されています。Wiley Online Library

さらに興味深い研究があります。

55〜80歳の成人120人を対象にした研究では、1年間の有酸素運動を行ったグループで、記憶に深く関わる海馬の前部の容積が約2%増加し、空間記憶にも改善がみられました。一方、ストレッチなどを行った対照群では、同じ期間に海馬の容積が減少していました。PubMed

歳を重ねても、身体を動かすことに脳が応えてくれる可能性がある。

そう知ると、

「オヤジもまだまだ動いとこ」

と思えてきます。

健康のために我慢して運動するのではなく、気持ちいいから身体を動かす。

その先で脳にもいいことが起きているのなら、なおうれしい話です。

今日の青空が教えてくれたこと

家に帰ってヘルメットを脱いだとき、

「今日は、いい一日だった。」

と思いました。

特別な観光地へ行ったわけでも、高価な買い物をしたわけでもありません。国道2号線を、潮風を感じながらゆっくり走っただけです。

それなのに、心は満たされていました。

近所を散歩する。公園を歩く。好きな景色を見に行く。

そんな身近なことでも、身体を動かして「気持ちよかった」と思える時間はつくれます。

研究を調べれば、身体を動かすことと気分や脳との間には、さまざまなつながりがあることが分かります。

でも私にとって、身体を動かすきっかけは、もっと単純でいい。

「天気ええな。海、見に行こか。」

健康のため、脳のため、と力むより、気持ちいいからまた走る。

次に青空が広がった朝も、たぶん私はバイクを引っ張り出します。

この記事を書くにあたって参考にした研究・資料

Desai S, Borg B, Cuttler C, et al.
A Systematic Review and Meta-Analysis on the Effects of Exercise on the Endocannabinoid System.
Cannabis and Cannabinoid Research, 2022.
→ PubMed

Dinoff A, Herrmann N, Swardfager W, Lanctôt KL
The effect of acute exercise on blood concentrations of brain-derived neurotrophic factor in healthy adults: a meta-analysis.
European Journal of Neuroscience, 2017.
→ PubMed

Erickson KI, Voss MW, Prakash RS, et al.
Exercise training increases size of hippocampus and improves memory.
Proceedings of the National Academy of Sciences, 2011.
→ PubMed

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