先日、ある本を読んでいると、知らない言葉が出てきました。
「レッチリ」
何じゃ、これ?
文脈からすると、どうも音楽らしい。
調べてみると、アメリカのロックバンド、レッド・ホット・チリ・ペッパーズのことでした。
名前くらいは聞いたことがあります。でも、「レッチリ」と呼ばれていることも、どんな音楽なのかも知りません。
(ハイ! オジン!)
となると、聴いてみたくなる。
自宅にあるAmazonのスマートスピーカーに、
「アレクサ、レッチリかけて」
と頼んでみました。
Alexaは、話しかけるだけで音楽をかけたり、天気を教えてくれたりする音声アシスタントです。
はたして「レッチリ」で通じるんかいな。
すると――音楽が流れ始めました。
おお、ええやん。
知らない言葉を一つ調べただけなのに、今まで聴いたことのなかった音楽まで聴いている。
ほんの少し、自分の世界が広がったような気がしました。
知らなかったものが、まだこんなにある
ところで、最初に書いた「ある本」は、津村記久子さんの『水車小屋のネネ』です。
実は、津村記久子さんの作品を読むのも初めてでした。
Facebookで誰かが薦めているのを見かけ、ちょっと気になった。でも、いかにも自分の趣味とは違いそうです。
「買うところまではいかんなあ」
と図書館で予約。
(貧乏臭い?)
ところが人気だったようで、順番が回ってきたのは1年ほど後でした。
あとになって、本屋大賞の上位に選ばれた作品だったことを知りました。
ようやく手にすると、今度はその分厚さにびっくり。
「これ、読了せずに返却かな」
と思ったのですが、読み始めるとグングン進みました。
そして読み終えて感じたのは、そこはかとない、これまで出会ったことのないような 深くたおやかな愛 。
知らなかった作家の、知らなかった本。
その本の中で「レッチリ」という知らない言葉に出会い、今度は知らなかった音楽につながった。
一つの知らない世界から、また次の知らない世界へ。
年齢を重ねると、知っていることは増えていきます。
でも、「知らないこと」が減っているわけではありません。
知らなくても困らない。
知らないまま通り過ぎても、たぶん何も困らない。
でも、知ってみたら面白かった。
そして一度知ってしまうと、「レッチリ」という文字を見かけたとき、以前とは違って目に留まるようになります。
世界そのものが変わったわけではない。自分の中に、世界を見る窓が一つ増えた。
年齢を重ねても、そんな窓はまだまだ増やせそうです。
大人になってから新しいことを学ぶ意味
大人になってから新しいことを学ぶことについて、面白い研究があります。
60~90歳の人たちが、デジタル写真やキルティングなど、それまであまり経験していなかった技能を3か月にわたって学んだ研究です。
その結果、こうした新しい技能に継続して取り組んだグループでは、比較対象となったグループに比べ、一部の記憶課題で改善がみられました。
年齢を重ねてから新しい技能を学んだ人たちに、記憶課題の改善がみられたというのは興味深い話です。
「新しいことをすれば脳が若返る」とまで言うことはできません。
でも、
「もう歳だから、今さら」
と最初から扉を閉めてしまう必要もなさそうです。
「知らない」は、ちょっと楽しい
知らない言葉。
知らない音楽。
知らない植物。
知らない土地。
調べてみると、それまで自分にはなかったものが一つ増える。
全部を覚えておく必要もありません。
何かの役に立てようとしなくてもいい。
「へぇ、こんなんあるんや」
それだけで、世界は少し広がります。
そして、その先にまた知らないものが見つかるかもしれません。
一つの「知らない」が、次の世界への入口になる。
そんな広がり方も、学ぶ楽しさの一つだと思います。
学ぶことは、若い人だけのものではない
教育の仕事をしていると、「学ぶ」という言葉をどうしても子供と結びつけて考えがちです。
でも、大人だって知らないことだらけです。
むしろ歳を重ねたからこそ、以前なら素通りしていたものを面白いと思えることもあります。
今回も、始まりはたった一つの「知らない」でした。
あの一言を、
「知らん」
で通り過ぎていたら、レッチリを聴くこともなかったでしょう。
知らなかった作家の、知らなかった本へ。
一冊の本から、知らなかった音楽へ。
そこからまた、何か別のものにつながっていくかもしれません。
いくつになっても、新しい世界は残っている。
「脳を若返らせるため」なんて難しく考えなくても、まずはそれを楽しめばいい。
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この記事を書くにあたって参考にした研究・資料
Park DC, Lodi-Smith J, Drew L, et al.
The impact of sustained engagement on cognitive function in older adults: The Synapse Project.
Psychological Science, 2014.
→ PubMed


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