「先生、今日来る時、家出たらムシおってん」
「僕な、僕な、弟おんねん」
「うち偉いねんで。ピーマン食べれんねん」
小さな子供たちは、いろんな話を聞かせてくれます。
子供が話す。大人が聞く。これは基本です。
でも、そろそろトレーニングを始めたいのに、話が終わらない。そんなとき、どうしましょう。
今回は、ちょっと風変わりな名前の「京都ぶぶ漬け作戦」をご紹介します。
「~したらどうどす」
2011年のコラムには、こんなことを書いています。
「京都ぶぶ漬け作戦:今日こんなことがあってね、などと話題を逸らせて逃げる子に、和やかな表情で『~したらどうどす』『~したらどうどす』と優しく言い続ける。緩やかな誘いにもかかわらず、選択の余地はないと諦め…。」
京都のぶぶ漬けといえば、「そろそろお帰りになっては」という意味を込めた、遠回しな誘いとして知られるお話です。
もちろん、実際の京都の人がみんなそんな言い方をするわけではありません。
そのイメージを借りて、教室での対応に名前をつけたわけです。
穏やかに、優しく。
でも、いつまでもおしゃべりを続けるわけにはいきません。
まず、子供の話を聞く
個別指導塾では、授業の最初に1〜2分ほど四方山話をすることがありました。
ちょっとした会話でフレンドリーな雰囲気をつくってから、
「さぁ、始めよう。お願いします」
と、授業に入ります。
一方、2歳から12歳を対象とした頭脳開発教室では、まず挨拶から。
子供が何か話そうとすれば、まず聞きます。
虫を見つけたことも、弟のことも、ピーマンを食べられたことも、子供にとっては先生に聞いてほしい話なのです。
そして、ひとしきり聞いたら、
「わかった。じゃ、始めようね」
ここまでは、いつもの流れです。
ところが、まだ話そうとする子もいます。
話が尽きないのか、それとも今日のトレーニングを始めたくないのか。
その様子を見ながら、京都ぶぶ漬け作戦の出番を考えます。
話を聞くことと、話に引きずられることは違う
子供の話を聞くのは、大切なことです。
でも、話を聞くことと、いつまでも話に付き合うことは同じではありません。
「じゃ、始めようね」と伝えても、また別の話が始まる。
そこで大人まで話に夢中になってしまえば、予定していたトレーニングは、なかなか始まりません。
そんなときには、話を遮って叱るのではなく、和やかな表情で課題へと誘います。
「~したらどうどす」
また話が始まっても、
「~したらどうどす」
優しい言い方ですが、取り組んでほしいことは変わりません。
もっとも、話が続く理由は子供によって違います。どうしても聞いてほしいことがある場合もあれば、課題に何か困難を感じている場合もあるでしょう。
だから、言葉だけを真似して、誰にでも同じ対応をすればよいわけではありません。
子供の話を聞いたうえで、今は活動へ戻す方がよいと判断したときの作戦なのです。
優しさと、方向を示すことは両立できる
ここで、最近の教育研究を一つ紹介しましょう。
2025年に発表された94研究をまとめた分析では、教師が子供の自主性を支えることと、目標や取り組み方を明確に示すことは、互いに補い合う関係にあると報告されています。
つまり、子供の気持ちを大切にすることと、大人が必要な方向を示すことは、必ずしも対立しないのです。
京都ぶぶ漬け作戦にも、通じるところがあるように思います。
子供の話は聞く。
でも、トレーニングを始めるときには、始める方向へ誘う。
穏やかに接することは、何でも子供の言うとおりにすることではありません。
大阪のおばちゃん、芦屋マダム、そして京都ぶぶ漬け
これまで、三つの陽動作戦をご紹介してきました。
大阪おばちゃん作戦は、乗り気でない子供に、明るく元気に働きかける。
芦屋マダム作戦は、別の課題に変更しようとする子供に、笑顔で毅然と課題を示す。
そして京都ぶぶ漬け作戦は、話題を逸らしてなかなか始めようとしない子供に、穏やかに本題へ戻るよう誘う。
どの作戦にも、使いどころがあります。
同じ子供でも、その日の様子や課題によって、対応を変えることがあります。
もちろん、予定を変更することも、その日は見送ることもあります。
大切なのは、作戦を成功させることではありません。
何をどうすれば、この子の力をよりよく伸ばせるのか。
そのために、指導員がいろいろな引き出しを持ち、使い分けることです。
子供の話を聞く。
必要なときには、活動へと誘う。
そして、変えるべきところは変え、変えない方がよいところは変えない。
大阪のおばちゃんも、芦屋マダムも、京都ぶぶ漬けも、みんなそのための作戦でした。
この記事で紹介した研究・資料
子供の自主性を支えることと、明確な指導を組み合わせることに関する研究
教師の自主性支援と、目標や取り組み方を明確に示す指導について、94研究をまとめて分析した2025年の研究。
→ 研究論文(Educational Psychology Review)
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陽動作戦① 大阪おばちゃん作戦――「やりたくない」の空気を変える
陽動作戦② 芦屋マダム作戦――子供に合わせる。でも、合わせすぎない


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