毎朝、コーヒーを淹れながら2分ほどスクワットをしています。
そんな私が、ある記事で「スクワットで脳の海馬が大きくなる!?」という気になる見出しを見つけました。
毎朝やっている身としては、うれしい話です。
でも、本当でしょうか。
気になって、いろんな研究を調べてみました。すると、話はそれほど単純ではありませんでした。
でも、調べていくうちに、最初に期待したものとは少し違う、もっと面白い話が見えてきました。
スクワットで海馬が大きくなる?
海馬は、記憶や学習に深く関わる脳の領域です。
「運動によって海馬が大きくなる」と聞けば、気になります。
実際、運動と海馬の関係を調べた研究はたくさんあります。複数の研究をまとめて分析すると、運動によって海馬の体積が保たれる可能性も報告されています。
では、筋トレではどうなのでしょう。
ちょうどいい研究がありました。
60~85歳の人が12週間、下半身を鍛えた
2024年、60~85歳の男女70人を対象にした研究が発表されています。
参加者を、12週間にわたって下半身を中心とした筋トレをするグループと、しないグループに分け、MRIで海馬の大きさを詳しく調べました。
結果は――。
筋トレをした人の海馬が明らかに大きくなった、とは言えませんでした。
あらら。
私の毎朝のスクワットで海馬がどんどん育っている。
そんな都合のいい話ではなさそうです(笑)。
ところが、この研究には続きがありました。
海馬は大きくならなかった。でも……
同じ参加者について、2025年には別の角度から調べた結果が発表されています。
ここで少し面白いことが見つかります。
軽度認知障害(MCI)のリスクが高い人たちでは、筋トレをしたグループで、海馬のすぐ近くにある「海馬傍回」の皮質が厚くなる方向の変化が見られました。
さらに、必要のない反応を抑える力を調べる認知課題でも改善が見られています。
記憶に深く関わる「嗅内皮質」の変化と、認知課題の成績向上との関連も報告されました。
つまり、12週間の下半身の筋トレで、海馬そのものが大きくなったわけではありませんが、海馬周辺の脳領域と認知機能には変化が見られたのです。
筋トレというと、まず思い浮かぶのは筋肉です。
ところが、この研究では筋肉だけでなく、脳の構造や認知機能にも変化が見られました。
これは面白い。
そこで、もう少し掘ってみました。
頭を使うと、高齢者の脳はどうなる?
今度は筋トレから、いったん離れます。
2010年、中高年から高齢者を対象に、8週間の記憶トレーニングを行った研究があります。
トレーニングをした人たちは記憶成績が向上しました。
ここまでは、まあ分かります。
面白いのは、その先です。
MRIで調べると、トレーニングをしなかった人たちと比べて、一部の脳領域で大脳皮質が厚くなっていたのです。
しかも一部では、脳の変化と記憶成績の向上にも関連が見られました。
若者の話ではありません。
年齢を重ねた人でも、記憶トレーニングの前後で脳の構造に変化が見られた。
こうした、経験や学習などに応じて脳が変化する性質を「神経可塑性」と呼びます。
つまり、この研究では、記憶トレーニングによって、中高年から高齢者の脳にも神経可塑性を示す変化が観察されたことになります。
私は、この言葉の方が「スクワットで海馬が大きくなる」より、だんだん魅力的に思えてきました。
では、運動でなぜ脳に変化が起こる?
ここまで見てきた研究では、記憶トレーニングだけでなく、筋トレでも脳の構造や認知機能に変化が見られました。
では、身体を動かすことが、なぜ脳の変化につながるのでしょう。
運動と脳の関係を調べていくと、BDNF(脳由来神経栄養因子)や、筋肉などから分泌されるマイオカイン、脳血流など、いろんな話が出てきます。
実際、運動によってBDNFが増えることを示した研究もあります。
ただ、
筋トレ → BDNFやマイオカインが増える → 脳が若返る
と一直線につなげるほど、話は簡単ではありません。
BDNFやマイオカインについては、近々、別の記事であらためて紹介します。
ここでは、いったん横に置いておきます。
年齢を重ねても、脳には変化する力が残っている
最初は、
「スクワットで海馬が大きくなる!?」
という見出しが気になっただけでした。
調べてみると、期待したほど単純な話ではありません。
筋トレをすれば海馬が大きくなる、という結果ではありませんでした。
でも、その周辺では興味深い変化が報告されている。
記憶トレーニングでも、年齢を重ねた人の脳に構造的な変化が観察されている。
そうやって研究をたどっていくと、別の景色が見えてきます。
年齢を重ねても、脳には変化する力が残っています。
頭を使う。
新しいことを覚える。
身体を動かす。
年齢を重ねても、そんな経験に応じて脳が変化する余地は残っています。
「スクワットで海馬が大きくなる」より、私にはこちらの方がずっと面白い話でした。
ところで、毎朝2分のスクワットは?
さて、私の朝に戻ります。
浸漬式のドリッパーでコーヒーを淹れ、抽出を待つ約2分。
その間、「おいしくなあれ」と念じながらスクワットをしています。
回数ややり方は、その日によっていろいろです。
残念ながら、
「毎朝2分スクワットをすれば海馬が大きくなる」
という話ではありませんでした。
でも、ここで新しい疑問が出てきます。
そもそも、たった2分程度の運動に意味はあるのでしょうか。
調べてみると――。
どうやら、「短いから意味がない」とも言えないようです。
おっと、また話が長くなりそうです。
この続きは、次の記事で。
この記事で紹介した研究・資料
Vints WAJ, et al.
Resistance exercise effects on hippocampus subfield volumes and biomarkers of neuroplasticity and neuroinflammation in older adults with low and high risk of mild cognitive impairment: a randomized controlled trial.
GeroScience, 2024.
→ PubMed
Kušleikienė S, et al.
Cognitive gains and cortical thickness changes after 12 weeks of resistance training in older adults with low and high risk of mild cognitive impairment: Findings from a randomized controlled trial.
Brain Research Bulletin, 2025.
→ PubMed
Engvig A, et al.
Effects of memory training on cortical thickness in the elderly.
NeuroImage, 2010.
→ PubMed
Wilckens KA, et al.
Exercise interventions preserve hippocampal volume: A meta-analysis.
Hippocampus, 2021.
→ PubMed
Vints WAJ, et al.
Investigating the mediating effect of myokines on exercise-induced cognitive changes in older adults: A living systematic review and meta-analysis.
Neuroscience & Biobehavioral Reviews, 2025.
→ PubMed


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