自己肯定感だけで大丈夫?|バンデューラの「自己効力感」から考える子供の自信の育て方

子供たちに

サッカー男子W杯の盛り上がり、本当にすごいですね。

世界の舞台という大きなプレッシャーの中でも、一瞬のチャンスに思い切って飛び込んでいく選手たちを見ていると、

「どうして、あんな場面で自分を信じて動けるんだろう?」

と思うことがあります。

そんなとき、あるスポーツ心理学の記事で目に留まった言葉がありました。

「自己効力感」

私は、この言葉をそれまでほとんど意識したことがありませんでした。

調べてみると、心理学者アルバート・バンデューラが提唱した概念で、子育てや教育を考えるうえでも、とても面白い視点だと感じました。

自己効力感とは「自分なら、やれそうだ」という感覚

自己効力感を簡単に言えば、

「この課題なら、自分はやれそうだ」

という、自分の能力に対する見通しです。

たとえば、

「この問題なら解けそう」

「練習すれば、この技ができそう」

「失敗しても、もう一度やれば何とかできそう」

と感じられること。

これは、

「自分には人間として価値がある」

という感覚とは少し違います。

一般に「自己肯定感」と呼ばれているものは、自分自身を受け入れたり、自分の価値を認めたりする意味で使われることが多いでしょう。

一方、自己効力感は、

特定の課題や状況に対して「自分はできる」と思えるかどうか

に焦点があります。

どちらが上、どちらが下という話ではありません。

子供には、

「あなたは大切な存在だよ」

という安心感も必要です。

同時に、

「自分でやってみたら、できた」

という経験も大切なのだと思います。

「自己肯定感を傷つけない」と「何も言わない」は別

長年、子供たちや保護者の方々と接していると、

「叱ったら自己肯定感が下がるのでは?」

と心配される方に出会うことがあります。

もちろん、人格を否定したり、感情のまま怒鳴ったりすることはよくありません。

でも、

人を傷つけた。

約束を破った。

やるべきことを放ったままにした。

そんなときに、

「それは違うよ」

と伝えることまで避ける必要はないでしょう。

子供を大切にすることと、何でも認めることは同じではありません。

むしろ私は、

子供が「どうすれば次はできるか」を一緒に考えられる大人でいたい

と思っています。

そこで役に立つのが、自己効力感という視点です。

自己効力感を育てる4つの情報源

バンデューラは、自己効力感に影響する主な情報源として4つを挙げています。

1.達成経験|「自分でできた」

最も分かりやすいのが、自分自身の成功経験です。

昨日できなかったことが、今日はできた。

難しかった問題が解けた。

練習して、自転車に乗れた。

こうした、

「自分でやって、できた」

という経験は、次の挑戦に向かうときの大きな糧になります。

だからといって、何でも簡単に成功させればいいわけではありません。

大人が全部手伝ってしまえば、

「自分でできた」

にはなりません。

子供の今の力より少しだけ難しい課題を用意し、必要なところだけ支える。

そして最後は本人が、

「できた!」

と思える。

教育現場でも、この瞬間はとても大切だと感じます。

2.代理経験|「あの子にもできたなら」

自分と似た人が成功する姿を見ることも、自己効力感の材料になります。

ものすごいプロの技を見るのも刺激になります。

でも、

昨日までできなかった友達が練習してできるようになった。

自分より少し先を行く子が挑戦している。

そんな姿の方が、

「あの子にできたなら、自分にもできるかも」

につながることがあります。

子供同士で学ぶ意味は、ここにもありそうです。

3.言語的説得|「やってみたら、できそうだよ」

信頼している人から、

「そこまでできているなら、次もいけそうだね」

「このやり方ならできそうだよ」

と声をかけてもらうことも、自己効力感を支える材料になります。

ここで大切なのは、根拠なく、

「絶対できる!」

と言い続けることではありません。

できているところを見つけて、

なぜできそうなのかを具体的に伝える。

「さっき自分でここまでできたやん」

「前よりずっと速くなったな」

そんな言葉の方が、子供自身も納得しやすいでしょう。

4.生理的・情動的状態|「このドキドキをどう受け止めるか」

試合や発表会の前に、

「ドキドキする」

「失敗しそう」

と感じることがあります。

こうした身体の状態や感情を本人がどう受け止めるかも、自己効力感に関わると考えられています。

緊張していると、

「自分には無理だ」

と感じることもあります。

でも、

「緊張するくらい本気なんやな」

「少し深呼吸して、できるところからやろう」

と捉え直せれば、挑戦しやすくなることもあります。

ここでも、大人が、

「緊張したらダメ」

と消そうとする必要はありません。

緊張したままでもやれる。

そんな経験も、自信につながるのだと思います。

子供に必要なのは「根拠のある自信」

自己効力感を知って、私は、

「自信」という言葉の見え方が少し変わりました。

ただ、

「あなたなら何でもできる」

と言われるより、

「前にもここまでできた」

「この部分は自分でできるようになった」

「次はここをやってみよう」

と積み重ねていく。

その方が、

根拠のある「自分ならできそうだ」

につながります。

そして、この感覚は、失敗しない子を作るためのものではありません。

むしろ、

失敗しても、もう一度やってみようと思えるための自信

なのではないでしょうか。

大人が全部やってしまわない

子供が困っていると、つい助けたくなります。

私も教室で、

「先生、できひん」

と言われることがあります。

そこで全部やってしまえば、その場は早く終わります。

でも、それでは、

「先生にやってもらった」

で終わってしまいます。

ヒントを出す。

テキストの読む場所を示す。

一緒に考える。

そして、最後の一歩は本人にやってもらう。

できた瞬間に、

「ほら、自分でできたやん」

と気づかせる。

こういう小さな経験が、自己効力感につながると思います。

自己肯定感か、自己効力感か、ではない

「自己肯定感より自己効力感の方が大切なのですか?」

と聞かれれば、私はそうは思いません。

子供が、自分は大切な存在だと思えること。

そして、

自分には何かをやり遂げる力があると思えること。

どちらも大切です。

ただ、子供の自信について考えるとき、

「褒めて自己肯定感を高めよう」だけで終わらず、「自分でできた経験をどう作るか」も考えてみる。

自己効力感という言葉は、そのことを思い出させてくれます。

子供が壁の前で立ち止まったとき、

すぐに抱えて向こう側へ運ぶのではなく、

「どうやったら越えられるかな?」

と一緒に考える。

そして、自分の足で越えたときには、

「できたな」

と一緒に喜ぶ。

私は、そんな大人でありたいと思います。

この記事を書くにあたって参考にした研究・資料

・Bandura A. Self-efficacy: Toward a unifying theory of behavioral change. Psychological Review, 1977.

・Bandura A. Self-Efficacy: The Exercise of Control. W.H. Freeman, 1997.

・Pfitzner-Eden F. Why Do I Feel More Confident? Bandura’s Sources Predict Preservice Teachers’ Latent Changes in Teacher Self-Efficacy. Frontiers in Psychology, 2016.

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