「日本の子供は自己肯定感が低い」。そんな言葉を、よく耳にするようになりました。
そこから、「できるだけほめて育てよう」「叱らずに自信を持たせよう」という話につながることもあります。
もちろん、子供が自分自身を肯定的に受け止められることは大切です。でも、子供たちを見てきて、「自分をどう思うか」とは少し違う自信も大切だと感じています。
「これなら、自分にもできそうだ」
という感覚です。
心理学では、これを「自己効力感(self-efficacy)」と呼びます。心理学者アルバート・バンデューラが提唱した考え方です。PubMed
この言葉を知ったとき、私はロボット教室に通っていた一人の男の子を思い出しました。
ちょっとやんちゃな小学1年生
仮に、ジローちゃんとしておきましょう。
小学1年生のとき、おばあちゃんに連れられてロボット教室にやってきました。ちょっとやんちゃな雰囲気の男の子でした。
最初のころは手の力も弱く、文章や説明書を読むのもあまり得意ではありませんでした。それでも、ロボットを作ることは大好きでした。
好きだから作る。うまくいかなくても、また作る。
そうしているうちに少しずつ製作が速くなり、やがて説明書どおりに作るだけではなく、自分なりの改造にも熱心に取り組むようになりました。
そんなある日、私は何気なく言いました。
「太郎ちゃん、すごく考える子になってきたね」
すると、本人はちょっとキョトンとした顔をして、
「そんなん言われたことないわ」
と言いました。
彼の目から涙があふれそうになったので、雰囲気を変えようと、彼が工夫したところを指しながら、
「ここがエエやん」
と話を続けました。
その後、以前にもまして、自分なりの工夫をする姿が目立つようになったように感じました。
もちろん、私のあの一言が、その後の成長にどれほど影響したのかは分かりません。ただ、本人が積み重ねてきた変化を、大人がちゃんと見つけ、言葉にしてしっかり本人へ返す。そんな言葉は、子供が自分の成長に気づくきっかけになるのではないかと思っています。
今でも、あのときの「そんなん言われたことないわ」という言葉が心に残っています。
自己肯定感と自己効力感は、ちょっと違う
「自己肯定感」という言葉は、日常ではかなり広い意味で使われています。「自分はこれでいい」「自分には価値がある」といった、自分自身を肯定的に受け止める感覚を指して使われることが多いでしょう。
一方、心理学者アルバート・バンデューラが提唱した「自己効力感」は、もう少し具体的です。
たとえば、「この問題なら解けそうだ」「このロボットなら作れそうだ」というような、ある課題や状況で必要な行動を、自分はうまくできそうだという感覚です。APA心理学辞典
「自分には価値がある」と感じることと、「この課題なら自分にもできそうだ」と感じること。同じ「自信」という言葉で語られることがありますが、少し違います。
どちらが上でどちらが下という話ではありません。子供を見るときには、この違いを知っておくと役に立つと思っています。
「できた」という経験が、自信の土台になる
バンデューラは、自己効力感を形づくる主な情報源として四つを挙げています。
自分自身で実際にやり遂げた経験。自分と似た人などが取り組む姿を見ること。周囲からの励ましや働きかけ。そして、そのときの身体や感情の状態です。
なかでも、自分自身でやってみて「できた」という経験は、自己効力感にとって重要な情報源とされています。アメリカ心理学会
太郎ちゃんにも、その積み重ねがありました。
最初から「考える子」だったから、私がほめたわけではありません。作るのが好きで何度も作り、少しずつ速くなり、やがて自分で改造するようになった。それを私は見ていました。
だから、あの日の私の言葉は、ゼロから自信を与えたのではなく、
「君、こんなふうに変わってきてるで」
と、本人が積み重ねてきたものを言葉にして返しただけです。
「ほめればいい」ではない
「じゃあ、『できるよ』『すごいよ』と言い続ければ、自己効力感が高まるんですね」と思われる方がいるかもしれませんが、少し違います。
周囲からの励ましや言葉は、自己効力感を形づくる情報源の一つです。しかし、それだけではなく、本人が実際に経験した成功や失敗、周囲の人の姿、そのときの身体や感情の状態なども関係します。アメリカ心理学会
できていないのに「あなたなら絶対できる!」と言い続けるより、私はその子が実際にやったことを見つけて返す方を大切にしてきました。
「前よりここまでできるようになったね」
「この工夫、自分で考えたん?」
「前はここで止まってたけど、今日は自分で進めたんや」
これは「ほめる」というより、その子が実際にやったことや変わったことを、大人がちゃんと見つけて、しっかり言葉にするという感覚に近いと思います。
8年たったジローちゃん
ジローちゃんがロボット教室に入ってから、8年がたちました。
今も上級のロボティクスプロフェッサーコースで、C言語を使いながら、本格的なロボット製作に取り組んでいます。
小学1年生のころ、文章を読むのも製作するのも決して得意ではなかった男の子です。それが、好きだからやってみる。少しできる。またやる。前よりできる。さらに難しいことに挑戦する。そんな経験を何年も積み重ねてきました。
私は、これが子供の自信が育っていく道筋の一つではないかと思っています。
大人が「あなたはすごい」と、外から自信を注入するのではありません。子供自身が積み重ねてきた「できた」を、大人がちゃんと見つけて、しっかり言葉にして返してあげる。
「ここがエエやん」
それができた**「君がエエやん」**
あの日、ジローちゃんに伝えたかったのは、結局それだったのかもしれません。
この記事を書くにあたって参考にした研究・資料
Bandura A
Self-efficacy: Toward a unifying theory of behavioral change.
Psychological Review, 1977.
→ PubMed
Bandura A
Self-Efficacy: The Exercise of Control.
W. H. Freeman, 1997.
→ 国立国会図書館サーチ
American Psychological Association
Self-efficacy: The theory at the heart of human agency.
2025.
→ American Psychological Association


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