サッカー日本代表戦で、なぜこんなに一喜一憂する?|期待と落胆を脳科学から考えてみた

大人に

先日のサッカー男子日本代表、決勝トーナメント1回戦のブラジル戦。

本当に惜しかったですね。

深夜・未明の試合だったにもかかわらず、テレビの前で声を上げ、一喜一憂した方も多かったのではないでしょうか。

予選リーグを勝ち進むうちに、

「もしかしたら、ブラジルにも勝てるんじゃないか?」

と、私の期待もどんどん膨らんでいきました。

そして前半29分。

佐野海舟選手のドッカーンと突き刺さるようなミドルシュート!

思わず声が出ました。

ところが試合が進むにつれて、

「このまま守りきれるだろうか……」

という不安が膨らんできます。

後半序盤に追いつかれ、最後はアディショナルタイム終盤で逆転。

あ〜ぁ。

インタビューを聞く気にもならず、私は傷心のままベッドへ向かいました。

それにしても不思議です。

私はピッチで走ったわけでもないのに、なぜこんなに興奮し、こんなにガッカリするのでしょう。

今回は、この「心のボルテージ」を脳科学や心理学の研究から考えてみます。

試合が始まる前から、もう楽しい

スポーツ観戦の面白さは、試合が始まってからだけではありません。

「今日は勝てるかもしれない」

「もしブラジルに勝ったら……」

そんな期待をしている時間から、すでに楽しい。

脳科学では、報酬そのものだけでなく、「これから良いことが起こりそうだ」という予測や期待についても多くの研究が行われています。

その中心的な研究テーマの一つが、ドーパミンと「報酬予測誤差」です。

簡単に言えば、

予想していた結果と、実際に起きた結果との差

です。

予想より良かった。

予想どおりだった。

予想より悪かった。

脳はこうした違いを利用して、次に何を期待するかを学習していると考えられています。

佐野選手のゴールは「予想以上」だった

ブラジル相手に先制できたらいいな、とは思っている。

そして、あの先制ゴール。本当に入った!

こういう「予想より良いことが起きた」場面は、報酬予測誤差の考え方で見ると面白いところです。

研究では、予想より良い結果が得られたときに、一部のドーパミンニューロンが強く反応し、逆に予想より悪い結果では活動が低下することが知られています。

「まさか!」

「やった!」

という予想外の出来事が強い感情を生み、その瞬間が記憶に残る。

スポーツ観戦のおもしろさの一つは、こうした予測できない展開にあるのでしょう。

「守りきれるか……」という不安も観戦の一部

先制した直後は最高の気分。

ところが、ブラジルの攻撃が続くと、

「ヤバい」

「まだ時間あるぞ」

「守りきれるか?」

と、不安になってきます。

未来に何が起こるか分からない。

こうした「予期」や「不確実性」に伴う感情には、島皮質や扁桃体、前頭前野など複数の脳領域が関係することが研究されています。

実際、スポーツ観戦はただ座ってテレビを見ているだけでも、身体にとっては意外に大きな出来事です。

2010年サッカーW杯決勝を観戦したスペインのファンを調べた研究では、普通の日と比べて試合観戦時にコルチゾール値が高くなっていました。

テレビの前で、

「うわっ!」

「危ない!」

と叫んでしまう。

手に汗を握る。

心臓がドキドキする。

観戦しているだけなのに、身体まで試合に参加しているような感覚。

これもスポーツのおもしろさなのでしょう。

そして、期待が一気に崩れた

後半に追いつかれました。

それでも、

「まだいける」

と思っていました。

ところが、アディショナルタイム終盤に逆転。

もう時間がない。

そこで私の「心のボルテージ」は一気に落ちました。

報酬予測誤差の研究では、期待していた報酬が得られなかった場合、一部のドーパミンニューロンの活動が基準より低下することが知られています。

スポーツ観戦の落胆には、

期待していた結果との差。

応援していたチームへの思い入れ。

「もう時間がない」という状況。

それまでの興奮。

さまざまな要素が絡んでいます。

「ドーパミンが下がった=落胆」ではなく、人間の感情はもっと複雑です。

だから、おもしろいのだと思います。

この「期待→歓喜→不安→落胆」は日常にもある

考えてみると、この感情の動きはスポーツだけではありません。

たとえば仕事で、大きな案件の提案をした。

「今回はいけるんじゃないか」

と期待する。

プレゼンの感触もいい。

「これは取れたかも」

と思う。

ところが数日後、

「今回は他社に決まりました」

という連絡が来る。

ガックリ。

もちろんサッカー観戦と仕事では状況が違います。

でも、

人は未来を予測し、期待し、実際の結果と比べながら感情を動かしている。

これは共通しています。

スポーツ観戦は、その動きが90分ほどの間に凝縮されるから、ジェットコースターのように感じるのかもしれません。

「悔しい」を言葉にしてみる

では、試合後のガッカリをどうしたらいいのでしょう。

別に、無理に消す必要はないと思います。

悔しいものは悔しい。

ただ、

「あ〜ぁ……」

だけで終わらず、

「勝てると思っていたから、悔しい」

「最後の最後だったから、余計にガッカリした」

と、自分の感情を言葉にしてみるのは一つの方法です。

心理学では、感情を言葉にすることを 感情ラベリング(affect labeling)と呼びます。

実験研究では、ネガティブな感情を言葉で表すことが、扁桃体などの反応を弱めることと関連した結果が報告されています。

大切なのは、

「今、ドーパミンが減っている」

と分析することではありません。

「悔しい」「残念」「期待していた」

と、自分が感じていることをそのまま言葉にすることです。

それでも、あのシュートはすごかった

負けた。

だから、全部ダメだった。

では、ちょっともったいない。

前半の佐野選手のシュート。

ブラジル相手に戦った時間。

「もしかしたら勝てるかも」と思わせてくれた展開。

ゴールキーパー彩艶、ヤバいやん。

結果は悔しいけれど、試合の中には楽しめた瞬間がたくさんありました。

これは「脳に別の報酬を与える」という話ではありません。

一つの出来事を、勝敗だけで評価しない。

それだけです。

スポーツでも、仕事でも、子供の学習でも、結果だけでなく、

「何がよかった?」

「どこがおもしろかった?」

と振り返る。

そうすると、同じ出来事でも見えるものが少し変わってきます。

まとめ|これだけ心が動くから、スポーツはおもしろい

期待する。

喜ぶ。

不安になる。

ガッカリする。

サッカーを一試合見ただけで、感情は大忙しです。

脳では報酬予測、不確実性、感情、身体感覚など、さまざまな仕組みが関わっています。

そして、何より、

応援しているから、心が動く。

ブラジル戦の翌朝は、少々寝不足。

しかも負けた。

それでも、あの先制ゴールを見た瞬間の、

「うぉーっ!」

は忘れません。

次の日本代表戦でも、きっとまた期待して、一喜一憂するでしょう。

それも含めて、スポーツ観戦です。エンジョイしましょう。

この記事を書くにあたって参考にした研究・資料

・Schultz W. Dopamine reward prediction error coding. Dialogues in Clinical Neuroscience, 2016.

・Schultz W. Dopamine reward prediction-error signalling: a two-component response. Nature Reviews Neuroscience, 2016.

・van der Meij L, et al. Testosterone and cortisol release among Spanish soccer fans watching the 2010 World Cup final. PLOS ONE, 2012.

・Singer T, Critchley HD, Preuschoff K. A common role of insula in feelings, empathy and uncertainty. Trends in Cognitive Sciences, 2009.

・Lieberman MD, et al. Putting feelings into words: affect labeling disrupts amygdala activity in response to affective stimuli. Psychological Science, 2007.

あわせて読みたい

コメント

タイトルとURLをコピーしました