ロボット教室の授業中、子供からよく聞かれます。
「先生、これで合ってる?」
テキストを見ながら、一生懸命ロボットを組み立てている途中です。
ちらっと見れば、私にはだいたい分かります。
でも、
「合ってるよ」
とは答えないことがあります。
「もうちょっと、がんばったらわかるでぇ」
そのまま先へ進んでもらいます。
ところが、同じ子がしばらくして、
「先生、でけへん」
と言ったら、
「テキストのここ読んでみ」
と答えることがあります。
同じ先生なのに、なぜ対応が違うのか。
大切なのは、すぐ教えることでも、何でも自分でやらせることでもない。
その子が今、どこまで自力でいけるのかを見ることだと考えているからです。
「もうちょっと」と「ここ読んでみ」は違う
「合ってる?」
と聞いてきても、その子がまだ自分で進めそうなら、すぐには答えません。
ロボットをもう少し組み立てれば、自分で分かることがあります。
ちゃんと動けば、
「あ、合ってた」
となる。
うまく動かなければ、
「あれ?」
となる。
もちろん、ロボットが、
「ここを間違えていますよ」
と教えてくれるわけではありません。
どこがおかしいのかは、自分で考えなければなりません。
だから、まだ進めそうな子には、
「もうちょっと、がんばったらわかるでぇ」
と声をかけます。
一方、
「でけへん」
と言って本当に手が止まっている。
そんなときには、
「ここ読んでみ」
と、テキストの参照すべき場所をポイントで示す。
それでも難しければ、もう少しヒントを出します。
さらに難しそうなら、支援を増やします。
つまり、
まだいけるなら、待つ。
少し詰まったら、小さなヒントを出す。
本当に困ってきたら、もっと助ける。
「教える」「教えない」の二択ではありません。
教えない先生ほど、子供を見ていなければならない
ロボット教室では、授業中、私は教室の中を何度もパトロールします。
ただ進み具合を確認しているわけではありません。
手が動いているか。
テキストを見直しているか。
考えているのか。
同じところで止まり続けていないか。
だんだんイライラしていないか。
そろそろ投げ出しそうではないか。
そんな様子を見ています。
長く子供たちを見ていると、うまくいかないことが続いたとき、早い段階で「できない」と判断してしまう子に出会うことがあります。
だから、
「自分で考えなさい」
と言って放っておけばいいわけではありません。
切れてしまう前に、入らなければならないこともあります。
逆に、まだ自分で考えている途中なのに、先生が、その子の世界に入れば、自分で乗り越える機会を奪ってしまうかもしれません。
だから、私は、
教えない先生ほど、子供をよく見ていなければならない
と思っています。
教育研究にも「その子に合わせて支援を変える」という考え方がある
教育の研究には「スキャフォールディング(scaffolding)」という考え方があります。
scaffoldは「足場」という意味です。
子供が一人では難しい課題に取り組むとき、必要な支援をして、自分でできるところへ近づけていきます。
ただ、今回大切なのは「ヒントを出せばいい」という話ではありません。
スキャフォールディングの研究では、子供の現在の理解や状態に合わせて支援を変える contingency(随伴性)が重要な特徴の一つとされています。
つまり、
できているなら、支援を減らす。
難しくなってきたら、支援を増やす。
教師が子供の理解を把握し、それに応じて支援を調整することが重要なのです。
これは、私が教室でやってきたこととよく似ています。
▶ 関連記事:「合ってる?」を繰り返す子供たち|失敗を怖がる子を「挑戦する子」にするには
「先生、できない」にもいろいろある
生徒が10人を超えると、アシスタントの先生にも入ってもらいます。
すると、面白いことがあります。
子供たちは、大人をよく見ています。
「この先生なら、いっぱい助けてくれそう」
と思うと、そちらへ行って、
「先生、できない」
と助けを求めることがあります。
先生も優しいので、
「どれどれ」
と手厚く助けようとします。
もちろん善意からの行動です。
でも、私は横で、
「そこ、自分でできるところやで」
と思っている(笑)。
助けを求めることが悪いわけではありません。
本当に分からないときに「助けて」と言えることは大切です。
でも、
今、本当に助けが必要なのか。
少し考えれば自分で進めるのか。
そこを見極めるのは大人の仕事です。
手伝うこと自体は、それほど難しくありません。
難しいのは、どこまで手伝わないかを決めることです。
「手伝わない」と「放っておく」は違う
前の記事では、子供が自分でできそうなことまで大人が先回りしないことを、少しふざけて「いけず」と呼びました。
でも、今回の話は、その先です。
「じゃあ、手伝わずに放っておけばいい」
ではありません。
子供がまだいけるなら待つ。
少し止まったら、
「ここ読んでみ」
と小さな足場を出す。
それでも難しければ、もう一段助ける。
投げ出しそうなら、もっとしっかり支える。
必要な支援量は、子供によって違います。
同じ子でも、その日、その課題、その瞬間によって違います。
だから、マニュアルどおりにはいきません。
まず、子供を見る。
そこから始まります。
▶ 関連記事:子供には、ちょっと「いけず」くらいがいい?|すぐに助けないことも子供のため
ロボットが動かなかった。そのあとが大切
ロボットを最後まで作った。
スイッチを入れた。
ところが、
動かない。
思ったような動きをしない。
そこで、
「できひん!」
と終わってしまえば、せっかくの経験がそこで途切れます。
ロボットは答えを教えてくれません。
だから、
どこがおかしいのだろう。
テキストと違うところはないか。
部品の向きはどうか。
ギアはきちんとかみ合っているか。
と、もう一度考える必要があります。
間違いからの学習についての研究でも、間違えること自体が自動的に学習につながるわけではないことが指摘されています。
間違いに気づき、その後に適切な情報を得て、修正していくことが重要です。
だから、先生も、
「失敗した。勉強になったな」
だけでは終われません。
その「動かない」を、「もう一度考えてみよう」へつなげられるか。
そこにも、大人の支援が必要です。
今回の1語|contingency(コンティンジェンシー)
今回覚えてほしい言葉は、contingencyです。
日本語では「随伴性」などと訳されます。
……これでは、余計に分かりにくいですね(笑)。
この記事では、
「その子の今に合わせる」
くらいに考えてください。
まだ一人でいける。
→ 待つ。
少し困っている。
→ 小さく助ける。
かなり困っている。
→ 支援を増やす。
そして、また自分でできるようになったら、
→ 支援を減らす。
一度決めた教え方を続けるのではなく、子供の状態を見ながら支援量を動かす。
それがcontingentな支援です。
まとめ|答えを見る前に、子供を見る
「先生、合ってる?」
そんなとき、すぐに、
「合ってるよ」
と答えることもできます。
でも、その子がまだ自分で進めそうなら、
「もうちょっと、がんばったらわかるでぇ」
でいい。
「先生、でけへん」
本当に止まっているなら、
「ここ読んでみ」
それでも無理なら、もう少し助ける。
大切なのは、
教えるか、教えないかではありません。
その子の今を見て、いつ、どこまで助けるかを変えること。
そのために、今日も教室をパトロールします。
子供が自分で進める時間を奪わず、でも、投げ出してしまうところまで放っておかないために。
この記事を書くために参考にした研究・資料
今回は、教師が子供の状態に応じて支援量を変える「scaffolding」、特にcontingencyについての研究と、間違いからの学習に関する研究を中心に参考にしました。
- van de Pol, J., Volman, M., & Beishuizen, J. (2010). Scaffolding in Teacher–Student Interaction: A Decade of Research. Educational Psychology Review, 22, 271–296.
教師と生徒のやり取りにおけるスキャフォールディング研究を整理したレビュー。contingency、fading、transfer of responsibilityなどを主要な特徴として整理しています。 - van de Pol, J., Volman, M., & Beishuizen, J. (2011). Patterns of Contingent Teaching in Teacher–Student Interaction. Learning and Instruction, 21(1), 46–57.
教師が生徒の理解を診断し、その状態に合わせて支援する過程を検討した研究です。 - van de Pol, J., Volman, M., Oort, F., & Beishuizen, J. (2015). The Effects of Scaffolding in the Classroom: Support Contingency and Student Independent Working Time in Relation to Student Achievement, Task Effort and Appreciation of Support. Instructional Science, 43, 615–641.
教師の支援が子供の状態に合っているかというcontingencyと、生徒が自力で取り組む時間との関係を実際の教室で検討しています。 - Metcalfe, J. (2017). Learning from Errors. Annual Review of Psychology, 68, 465–489.
「間違えること」そのものではなく、その後の訂正やフィードバックを含め、エラーがどのように学習につながるかを整理したレビューです。
※これらの研究結果が、すべての子供や授業場面にそのまま当てはまるわけではありません。子供の年齢、発達段階、課題、そのときの状態によって必要な支援は変わります。


コメント