「合ってる?」
一問解くたびに、先生の顔を見て確認する。
「これで合ってる?」
そんな子供を、私はこれまで何人も見てきました。
2015年にも、当時の教育コラムに「あってる?」というタイトルで、塾部門で数学演習に取り組む中学生のことを書いています。
数学の授業で、一問解くたびに講師に「合ってる?」と確認する。講師も対応に困っていたので、
「ええ感じやで。10問ごとに答え合わせしょ。今の実力確認だよ。」
と声をかけました。
ロボット教室の体験会でも似たことがあります。
少し進めるたびに、
「合ってる?」
「これでいい?」
と確認する小学生。
私は、
「大丈夫。どんどんやってみよう。うまくいかなくなったら助けるから」
と声をかけます。
あれから10年以上。でも、「間違うことをとても怖がる子供」は、今もいます。
なぜ、間違いをそれほど怖がるのでしょう。
そして、私たち大人はどう手助けすればいいのでしょうか。
なぜ「合ってる?」と何度も聞くのか
間違いたくない。
間違うと嫌な気持ちになる。
不安だから、できるだけ早く「大丈夫」と確認したい。
こうした気持ちは、大人にもあります。
ただ、子供が間違いを強く怖がる理由は、一つではありません。
もともと慎重な気質の子もいます。不安を感じやすい子もいます。これまでの学習経験や、周囲の大人が間違いにどう反応してきたか、が影響している可能性もあります。
ですから、「親が助けすぎたからだ」などと、簡単に原因を決めることはできません。
一方で、教育分野の研究では、子供が間違いをどう受け止めるか、は、先生や周囲がつくる「間違いを許容する環境」が関係することが分かってきています。
間違いを責められる環境と、間違いを「次にどうすればいいかを考える材料」として扱う環境では、子供の反応も変わってくるのです。
「失敗は成功の母」では、子供は変わらない
2015年の私は、こんなことを書いていました。
「失敗は成功の母」
そんな格言を一万回言っても、子供は変わらない。
今も、これはそのとおりだと思っています。
「間違ってもいいよ」
「失敗を怖がらなくていいよ」
そう言われただけで、失敗が怖くなくなるわけでもありません。
大切なのは、失敗そのものではなく、その後です。
やってみる。
うまくいかない。
少し考える。
やり方を変える。
それでも分からなければ、少しだけ助けてもらう。
そして最後に、
「できた」
までたどり着く。
失敗を成功の糧にするには、「失敗しても大丈夫」と教えるだけではなく、「うまくいかなくても、工夫すれば前に進めた」という経験が必要なのだと思います。
教えない。でも、放っておかない
先日のロボット教室の授業でも、こんな場面がありました。
ある子供が途中で行き詰まりました。
でも、すぐに手助けすることはありません。
まず、
「テキストをもう一度見てみよか」
と声をかけます。
それで、自分から読み直してくれればいいのですが、なかなか素直に進まないこともあります。
そんなときは、
「この辺をよう読んでみよ。写真も見てな」
と、見る範囲を少し狭めます。
それでも難しければ、もう少し具体的なヒントを出したり、読む範囲をさらに絞ったり。
こうして、状況に応じて少しずつサポートの方法を変えていきます。
もちろん、本当に困って泣きそうな顔になっているのに、
「自分で考えなさい」
と突き放すことはありません。
そこまで来たら、手厚くサポートしていきます。
大切なのは、何が何でも一人でやらせることではありません。
教えない。でも、放っておかない。
子供が自分で進めるぎりぎりのところに、大人が小さな足場をつくってあげるのです。
今回の1語|スキャフォールディング
こうした支援を説明する教育用語に「スキャフォールディング(scaffolding)」があります。
scaffoldとは、もともと建築現場などで使う「足場」のことです。
教育では、子供が一人ではまだ難しい課題に取り組むとき、大人が必要な分だけ手助けし、自分の力でできるよう支えることを「足場かけ」と表現します。
答えを教えるのではなく、
「もう一度見てみよう」
「この辺じゃないかな」
「ここまでは合っているよ」
と、必要な分だけヒントを増やしていきます。
このように段階的なヒントを与えながら、最終的には本人が答えを見つけるよう支援する方法は、「スキャフォールディド・フィードバック」と呼ばれることもあります。
言葉は少し難しいですが、考え方はシンプルです。
答えを渡すのではなく、答えまでたどり着くための足場を渡す。
私は、長年の指導の中で経験的にやってきたことが、この考え方にかなり近いと感じています。
目標は「失敗させること」ではない
ここは誤解してほしくないところです。
失敗には学習につながる可能性があります。
しかし、失敗すればするほど子供が伸びるわけではありません。
うまくいかない状態が続けば、
「やっぱり自分には無理だ」
と思ってしまう子もいます。
だから、私は、子供の様子を見ながら手助けの方法や量を変えます。
少しヒントを出せば自分で進めそうなら、そこで待つ。
まだ難しそうなら、もう一つヒントを出す。
そして最後は、できるだけ本人が、
「分かった」
「できた」
と思えるところまで持っていく。
目指しているのは、失敗をたくさん経験させることではありません。
失敗から、自分の力で立て直せたという経験を積ませることです。
「自分でできた」が自己効力感につながる
心理学には「自己効力感」という言葉があります。
簡単に言えば、
「自分なら、やればできそうだ」
という感覚です。
自己効力感を育てる重要な要素の一つが、自分自身で課題を達成した経験です。
誰かに全部やってもらって成功したのではなく、
「途中で困ったけれど、自分で考えてできた」
という経験です。
もちろん、大人が少し助けてもかまいません。
大切なのは、子供自身が、
「自分で前に進めた」
と感じられることです。
そんな経験を積み重ねれば、
「間違ったらどうしよう」
から、
「間違っても、何とかできるかもしれない」
へ少しずつ変わっていきます。
▶ 関連記事:自己効力感とは?子供が「自分ならできる」と思える力を育てる
「できた」の先に、もう一度やってみたいがある
前の記事では、脳の「報酬系」について紹介しました。
人の脳には、行動の結果から「何に価値があったのか」を学び、次の行動につなげる仕組みがあります。
だから、
「できた」
「分かった」
「さっきより、うまくいった」
という経験は、その場の喜びだけで終わるとは限りません。
「もう一度やってみよう」
という次の行動につながることがあります。
ただし、今回見てきたように、すべての子供が最初から失敗を乗り越えて、「もう一度」に進めるわけではありません。
その間をつなぐのが、成功までの小さな足場なのだと思います。
▶ 関連記事:なぜ人は「もう一度やりたい」と思うのか|報酬系とドーパミンの本当の役割
目指したいのは「試行錯誤の達人」
子供たちには、失敗しない人になってほしいとは思いません。
そんなことは無理です。
大人になっても、初めてのことに挑戦すれば失敗します。
だから、身につけてほしいのは、
「間違えない力」
ではなく、
「間違えたあと、次を考えられる力」
です。
うまくいかなかった。
じゃあ、どこが違ったのだろう。
もう一度見てみよう。
ちょっと変えてみよう。
それでも分からなければ、必要なところだけ助けてもらおう。
そして、もう一度やってみる。
私は、そんな子供を「試行錯誤の達人」に育てたいと思っています。
まとめ|「合ってる?」から「やってみる」へ
「あってる?」と確認すること自体が悪いわけではありません。
分からないことを聞くのも、助けを求めるのも大切な力です。
でも、答えを知る前に、
「まず、自分でやってみよう」
と思えるようになってほしい。
そのために大人ができるのは、何でも教えることでも、何でも一人でやらせることでもありません。
子供の様子を見ながら、必要な分だけ足場をつくる。
そして、
「自分で考えたら、前に進めた」
という経験を積ませる。
その小さな成功の積み重ねが、「次もやってみよう」という気持ちにつながっていきます。
では、こうして「考える、試す、間違える、直す、また試す」という経験を繰り返すと、子供の脳そのものには何が起こっているのでしょうか。
次は、神経細胞、シナプス、神経回路の話をできるだけ分かりやすく整理してみます。
この記事で参考にした研究・資料
・Dresel M, Daumiller M, Spear J, Janke S. 学習者が間違いから学ぶ力と、教室の「エラー風土」に関する縦断研究(British Journal of Educational Psychology, 2025)
・Metcalfe J, Finn B. らの、誤りからの学習とスキャフォールディド・フィードバックに関する研究・総説
・子供への訂正フィードバックと学習効果に関する発達的レビュー
・Banduraの社会的認知理論を基礎とした、達成経験と自己効力感に関する研究


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