子供たちが課題に取り組む姿を見ていると、同じようにうまくいかなくても、その後の行動はさまざまです。
そこでやめてしまう子もいれば、もう一度やってみる子もいます。うまくいったときも、「できた!」で満足する子もいれば、今度はもう少し難しいことを試し始める子もいます。
ロボット教室では、ロボット教室でも、そんな子供たちのさまざまな姿を見てきました。
思いどおりに動かない。どこがおかしいのか考える。組み直す。もう一度動かしてみる。
そして、ようやく動いた。
「できた!」
私は、この瞬間を大切にしてきました。
なぜ、何かを自分でやり遂げたときの達成感は、次の「やってみよう」につながるのでしょう。
そこには、脳の「報酬系」やドーパミンが関わっています。
今回は「脳の基礎講座」の第1弾として、まずこの仕組みから考えてみます。
「できた!」という達成感を大切にしてきた
教科学習でも、問題が解けたときの「分かった」「できた」という喜びはあります。
ただ、学習はずっと続いていきます。一つの問題が解ければ次の問題があり、一つの単元が終われば次の単元があります。
子供にとって、「ここまでやり遂げた」というゴールが、いつもはっきり見えるとは限りません。
ロボットづくりは、その点が少し違います。
今月は、このロボットを完成させる。
一つのゴールが目の前にあります。
もちろん、みんなが簡単にそこまでたどり着くわけではありません。
組み立てを間違えることもある。思ったように動かないこともある。「先生、でけへん」と持ってくる子もいます。
そんなとき、必要なら少し手伝う。ヒントを出す。そして、また本人にやってもらう。
最後にロボットが動いたときの、
「できた!」
毎月、一つの「完成」というゴールがあることに、私はロボットづくりのおもしろさの一つを感じています。
では、この「できた!」という経験と、次の行動にはどんな関係があるのでしょう。
脳の「報酬系」とは何だろう
「報酬」と聞くと、お金やお菓子、褒め言葉などを思い浮かべるかもしれません。
脳科学でいう「報酬」は、一般的な「報酬」という意味に加えて、もっと広い意味で使われます。
人の脳には、
「これは自分にとって価値がある」
「この行動は、よい結果につながった」
「次もやってみよう」
と、経験した結果から学び、次の行動につなげていく仕組みがあります。
こうした報酬に関わる学習や行動には、脳の複数の領域からなる「報酬系」が深く関わっています。
つまり報酬系は、ご褒美をもらって「うれしい」と感じることだけに関わる仕組みではありません。
何に価値があるのかを学び、その経験を次の行動につなげていくことにも深く関わっています。
そして、この報酬系で重要な働きをする物質の一つが、ドーパミンです。
ドーパミンは「快楽物質」だけではない
ドーパミンは、神経細胞同士の情報伝達に関わる神経伝達物質です。
「快楽物質」「やる気ホルモン」などと呼ばれることがありますが、それだけではドーパミンの働きを十分に表せません。
研究では、報酬を「好き」と感じることと、「欲しい」「近づきたい」「手に入れるために行動したい」という働きは、必ずしも同じではないと考えられています。
ドーパミンは、単に「気持ちいい」という感覚を生み出すだけではなく、報酬を求めて行動することや、経験から学ぶことにも深く関わっています。
ここは、子供の学びを考えるうえでも大切なところです。
ドーパミンが出ること自体が、子供を賢くするわけではありません。
この話は、あとでもう一度戻ってきます。
その前に、もう一つ知っておきたいドーパミンの働きがあります。
「思っていたより、うまくいった」から脳は学ぶ
報酬系とドーパミンを理解するうえで、大切な言葉があります。
報酬予測誤差です。
難しそうですが、考え方はそれほど難しくありません。
私たちは、何かをするときに結果を予想しています。
「こうしたら、こうなるかな」
そして、実際にやってみる。
予想どおりになることもあれば、予想とは違う結果になることもあります。
たとえば、
「できないと思っていたのに、できた」
「試してみたら、思っていたよりうまくいった」
そんなとき、予想と実際の結果との間に差が生まれます。
これが「報酬予測誤差」です。
一部のドーパミン神経は、得られた結果が予想よりよかったときに活動を強め、予想より悪かったときには活動を弱めます。
こうした信号は、何がよい結果につながったのかを学び、次の行動を変えていくために重要だと考えられています。
ロボットづくりでも、
「これで動くかな」
「やっぱり動かない」
「じゃあ、ここを変えてみよう」
「動いた!」
ということが起こります。
大切なのは、最後の「やった!」だけではありません。
予想する。やってみる。結果を見る。そして、また考える。
この繰り返しそのものが、経験から学んでいく過程なのです。
ドーパミンが出れば、賢くなるわけではない
以前、ロボット教室の体験会で、ドーパミンについて説明するときに覚醒剤の話をしたことがあります。
少々物騒な例ですが、言いたかったことがあります。
覚醒剤などの薬物は、脳のドーパミン系を強く刺激します。
しかし、だからといって賢くなるわけではありません。
ドーパミンがたくさん出れば、脳の能力もどんどん高くなる。そんな単純な仕組みではないのです。
最近では、ショート動画などの刺激を次々と求め、長時間見続ける子供たちを指して、「ドパガキ」という言葉まで聞くようになりました。
もちろん、これは科学用語ではありません。
ただ、ここでも同じことが言えます。
刺激を次々と受け、報酬系やドーパミンが関わる行動が繰り返されたからといって、それだけで子供の能力が伸びるわけではありません。
大切なのは、「ドーパミンが出たか」だけではなく、その前後でどんな経験をしたかです。
この「ドパガキ」については、別の記事でもう少し詳しく考えています。
▶関連記事:ドーパミン、悪者になってない? ― 「ドパガキ」から考えた子供の「できた!」
だから「自分でやってみる」を大切にしたい
ロボット教室で、子供が「先生、でけへん」とロボットを持ってくることがあります。
大人が直してしまえば、早い。
でも、私はなるべくそうしないようにしてきました。
「ここ、もう一回見てみ」
「この写真と比べてみ」
必要なら、そんなヒントを出します。
そして、また本人にやってもらう。
うまくいかなければ、もう一度考える。必要なら、また少し手伝う。
最後に、自分で動かす。
「できた!」
その「できた!」までの間に、子供は予想し、試し、結果を見て、またやり方を変えています。
だから私は、完成したロボットだけを見ているわけではありません。
そこまでに、子供が何をしてきたのか。
そこを大切にしたいのです。
「先生、でけへん」と言ってきた子供への対応については、別の記事でも詳しく書いています。
▶関連記事:「先生、でけへん」から始まる読む力の育て方|ロボット教室で見えた子供の成長
まとめ|毎月、一つの「できた!」
報酬系は、ご褒美をもらって喜ぶためだけの仕組みではありません。
何に価値があるのかを学び、その経験を次の行動につなげていくことにも深く関わっています。
ドーパミンも、単なる「快楽物質」や「やる気ホルモン」ではありません。
報酬を求めて行動することや、予想と結果の違いから学ぶことにも関わっています。
だからといって、ドーパミンが出れば出るほど、子供が賢くなるわけでもありません。
ロボット教室では、毎月、新しいロボットをつくります。
毎月、一つの「完成」というゴールがあります。
途中でうまくいかないこともある。考えてみる。やり直してみる。必要なら少し手伝ってもらう。そして、またやってみる。
最後に、
「できた!」
ドーパミンを出すことが目的ではありません。
自分で考え、自分で試し、自分なりに「できた」と思えるところまでたどり着く。
そんな達成感を、子供たちには何度も味わってほしいと思っています。
この記事で参考にした研究・資料
Schultz W.
Dopamine reward prediction error coding.
Dialogues in Clinical Neuroscience, 2016.
→ PubMed
Berridge KC, Robinson TE.
Liking, wanting, and the incentive-sensitization theory of addiction.
American Psychologist, 2016.
→ PubMed
Salamone JD, Correa M.
The mysterious motivational functions of mesolimbic dopamine.
Neuron, 2012.
→ PubMed
Pignatelli M, Bonci A.
Role of Dopamine Neurons in Reward and Aversion: A Synaptic Plasticity Perspective.
Neuron, 2015.
→ PubMed


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