「3歳までにできないとダメ?」子供の神経回路はどう育つのか

子供・教育

「3歳までに、基本的な生活習慣を身につけましょう」

そんな情報を目にして、「うちの子は、まだできないことがあります。大丈夫でしょうか」と相談されることが、これまで何度もありました。

相談に来られるお母さんは、決して過度に神経質な方ではありません。むしろ、子供のことをよく見て、よく考えている真面目なお母さんたちでした。だから、「3歳までに」という言葉が気になるのでしょう。

ウチの頭脳開発教室では、子供を見るとき、「3歳なのに、まだできない」ではなく、「この子は、今どこまでできているのだろう」と考えてきました。

子供の発達は、年齢とともに階段を一段ずつ上がるように、みんな同じ速さで進むわけではありません。

では、子供の脳の中では、何が起きているのでしょう。

今回は、脳の働きを考えるうえで基本となる神経細胞、シナプス、神経回路、そして「刈り込み」について考えてみます。

「できない」には、いろいろな理由がある

幼い子供の生活習慣には、排泄、睡眠、食事、着替え、手洗いや歯磨きなど、少しずつ身につけていきたいことがたくさんあります。

ただし、「○歳になったら、これができる」と単純に線を引けるものではありません。

たとえば、着替え。

一般には、服を脱ぐことの方が、着ることより先にできるようになります。

服を着るには、身体を動かすだけでなく、服の前後を確かめる、袖や裾の位置を見つける、順序よく身体を通す、ボタンなどの留め具を扱う、といったいくつもの動作が必要になります。

私たちは子供を見るとき、「着替えができない」で終わらせるのではなく、どこまでできて、どこで止まっているのか を見るようにしてきました。

服の前後は分かっているだろうか。袖に腕を通せるだろうか。ボタンはどうだろう。こちらの話を聞いて、順序どおりに動けるだろうか。

できないことだけではなく、すでにできていることも手掛かりにして、どこでつまずいているのかを見ていきます。

必要なら一段手前まで戻る。そこができるようになれば、次へ進む。

一つの「できない」の背景には、いくつもの力が関係しています。

実は脳の働きも、「一つのことを一つの場所だけが担当する」という単純なものではありません。

神経細胞は、一つでは働かない

脳の中には、たくさんの神経細胞(ニューロン)があります。

でも、一つひとつの神経細胞が、「着替え担当」「ことば担当」「我慢担当」と独立して仕事をしているわけではありません。

神経細胞は、ほかの神経細胞と情報をやり取りしながら働いています。

その情報の受け渡しに重要な役割を果たす接合部が「シナプス」です。

とても簡単にすると、

神経細胞 → シナプス → 神経細胞

というつながりが複雑なネットワークを作っています。こうしたネットワークを「神経回路」と呼びます。

見る、聞く、触る、身体を動かす、覚える、考える。私たちが何かをするときには、脳のさまざまな領域が関わり、情報をやり取りしています。

先ほどの着替えも同じです。手指の動き、身体の使い方、手順やことばの理解、これまでの経験など、いくつもの要素が関係しています。

だから、「これができないから、脳のここが育っていない」と簡単に決めつけることはできません。

神経回路づくりは、生まれる前から始まっている

では、この神経回路はいつ作られるのでしょうか。

5歳や6歳になって、突然作られ始めるわけではありません。

神経細胞が作られ、適切な場所へ移動し、神経同士がつながっていく脳の基本的な発達は、胎児期から始まっています。

生まれたあとも、神経細胞同士をつなぐシナプスは活発に作られていきます。

ここで、ちょっと不思議なことが起こります。

せっかく作ったつながりを、脳はその後、整理していくのです。

脳は、つながりを作りながら整理していく

発達初期の脳では、神経細胞同士をつなぐシナプスが盛んに作られます。

そして発達が進むにつれて、そのつながりは少しずつ整理されていきます。

よく使われるつながりが強まり、使われる機会の少ないつながりなどが弱まったり失われたりしながら、神経回路は変化していきます。こうした過程は、一般に「シナプスの刈り込み」と呼ばれています。

この変化は、脳全体で一斉に進むわけではありません。

脳の領域によって、シナプスが増える時期や、整理されていく時期には違いがあります。子供から大人へ成長していく長い時間の中で、それぞれの領域が異なる変化を続けていきます。

つまり、子供の脳は神経細胞同士をただたくさんつないでいくのではなく、

つながりを作り、使いながら、少しずつ整理していく。

そんな変化を続けています。

ですから、「シナプスが多ければ多いほど頭がいい」「神経回路がたくさんつながるほど賢い」と単純に考えることはできません。

子供にとって「経験」とは何だろう

「経験が脳の発達に大切」と聞くと、「子供にはいろいろな経験をさせた方がいいのだろうか」と思われるかもしれません。

でも、子供にとっての「経験」は、何か特別なことをさせることではありません。

見る。聞く。触る。身体を動かす。人とやり取りする。

自分でやってみる。うまくいかなければ、もう一度やってみる。

毎日の生活そのものが、子供にとって大切な経験です。

また、大人が一方的に何かを与えればいいわけではありません。

子供が何かをする。大人がそれに応える。子供がまた反応する。そんな人とのやり取りも、子供にとって大切な経験です。

頭脳開発教室でも、何でも先回りしてやってあげるのではなく、まず子供を見る。できそうなら待つ。困っているなら少し助ける。そして、また子供を見る。

そんなことを繰り返してきました。

5、6歳ごろは、知的な発達にも目を向けたい時期

私は以前、保護者の方に、

「5、6歳ごろから、前頭葉の発達が顕著になります」

と説明することがありました。

当時、私がこの言葉で伝えたかったのは、「5、6歳になったら、プリント学習をどんどんさせましょう」「知識をたくさん覚えさせましょう」ということではありません。

むしろ逆です。

このころの子供は、話を聞いて考える。少し我慢する。頭の中に覚えておく。うまくいかなければ、やり方を変える。そんな力も育っていきます。

だからこそ、何を覚えさせるかだけではなく、どんな環境で、何を考え、どんな経験をするのかにも目を向けてほしい。

そんな思いがありました。

今なら、「前頭葉が5、6歳から発達する」とは説明しません。

「少し我慢する」「話に注意を向ける」「頭の中に覚えておく」「うまくいかなければ、やり方を変える」。こうした働きには、抑制、ワーキングメモリ、認知的柔軟性などの「実行機能」が関係しています。

実行機能には前頭前野が重要な役割を担っていますが、前頭前野だけが単独で働いているわけではありません。

そして、実行機能は5、6歳になって突然現れるものではなく、それ以前から発達しています。その一方で、幼児期は実行機能が大きく発達していく時期でもあります。

3歳児と5歳児では、実行機能を使う課題の成績だけでなく、前頭前野の活動にも違いがみられた研究があります。

ですから、今なら、

「5、6歳ごろは、脳の発達に大きな変化がみられる時期の一つで、その後も発達は長く続いていきます」

と説明します。

昔と少し言い方は変わりました。

でも、この時期の子供に何を詰め込むかではなく、どんな環境で、どんな経験をしてもらうかを大切にしたいという考えは変わっていません。

長年、子供たちを見てきましたが、科学については私自身も学び直していかなければなりません。以前より正確なことが分かれば、説明も変える。このブログでも、そこは大切にしたいと思っています。

「何歳までに」より、「今どこまでできている?」

発達の目安を知ることは大切です。

「このくらいの年齢になると、こんなことができる子が増えてくる」という情報は、子供の成長を見る手掛かりになります。

ただ、発達の目安は、「この年齢なら、ここまでできなければならない」という合格ラインではありません。また、一つの目標を越えれば、それで終わりでもありません。

大切なのは、目安も参考にしながら、

「この子は、今どこまでできている?」

を見ることです。

できているところが分かれば、次の一歩を考える。

うまくいかなければ、「どこで止まっているのだろう?」と考えてみる。

必要なら一段戻って、その土台になる経験を積む。そして、できるようになったら、また次へ進む。

私たちは、そんなふうに子供たちを見てきました。

子供の脳は、「○歳になったら突然完成する」ものではなく、神経回路を作り、変化させ、整理しながら、その先も発達を続けていきます。

昨日までできなかったことが、今日は少しできた。

そんな変化にも目を向けてみる。

子供の「次の一歩」を考える手掛かりは、そこから見えてくるのかもしれません。

なお、できていたことができなくなった場合や、発達について強い心配がある場合には、「個人差だから」とだけ考えず、小児科や地域の相談窓口など専門家に相談することも大切です。

この記事を書くにあたって参考にした研究・資料

Huttenlocher PR, Dabholkar AS.
Regional differences in synaptogenesis in human cerebral cortex.
Journal of Comparative Neurology, 1997.
→ PubMed

Tierney AL, Nelson CA.
Brain Development and the Role of Experience in the Early Years.
Zero to Three, 2009.
→ NIH・PMC

Somerset NHS Foundation Trust
Dressing skills.
→ Somerset NHS Foundation Trust

Moriguchi Y, Hiraki K.
Prefrontal cortex and executive function in young children: a review of NIRS studies.
Frontiers in Human Neuroscience, 2013.
→ Frontiers

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