子供には、ちょっと「いけず」くらいがいい?|すぐに助けないことも子供のため

子供たちに

「先生、これ合ってる?」

子供が問題を解きながら聞いてきます。

聞こえています。

でも、ときどきスルーします。

「先生、できひん」

今度は、

「ここ読んでみ」

答えは教えません。

ちょっと、いけずです(笑)。

もちろん、意地悪をしたいわけではありません。

子供が自分でできそうなことまで、大人が先回りしてやってしまわない。

長く子供たちを教えてきて、大切にしていることの一つです。

最近、この「ちょっといけず」が、案外大切なのではないかと改めて考えています。

子供を大切にすることと、困らせないことは同じ?

今は「子供の自己肯定感を大切にしよう」と、よく言われます。

私は、それ自体はとても大切なことだと思っています。

子供の気持ちを無視したり、人格を否定したりしていいはずがありません。

ただ、ときどき気になることがあります。

子供の気持ちを大切にすることと、子供に嫌な思いをさせないことは、同じなのでしょうか。

できない。

分からない。

思ったようにならない。

悔しい。

もうやめたい。

そんな小さな「困った」まで、大人がすぐに取り除いてしまう必要があるのでしょうか。

長く教育現場にいると、子供が少し困ったときに、大人がすぐ助けようとする場面に出会うことがあります。

もちろん、助けることが必要な場合もあります。

でも、自分で乗り越えられそうなら、少し待ってみる。

私は、それも子供を大切にすることだと思っています。

大人がやったほうが、圧倒的に早い

子育てでは、こんな場面がいくらでもあるでしょう。

靴を履くのに時間がかかる。

ボタンがうまく留められない。

宿題で手が止まる。

工作が思ったようにできない。

大人には、やり方が分かっています。

だから、

「もう、貸して」

とやってしまえば早い。

教える側も同じです。

問題が解けない子供に、解き方を全部説明すれば授業は早く進みます。

でも、本当にそれでいいのでしょうか。

興味深い研究があります。

4~8歳の親子の観察と、4~5歳児を対象にした実験で、大人が難しい課題を子供の代わりにやってしまった場合、その後、子供が別の難しい課題に粘り強く取り組む時間が短くなったことが報告されています。

もちろん、一度手伝っただけで「我慢できない子になる」という話ではありません。

ただ、

大人が代わりに解決することと、子供自身が乗り越えるのを支えることは、同じではない。

これは覚えておきたいと思います。

「合ってる?」には答えないことがある

数学の演習でも、こんな子供がいます。

一問解いて、

「先生、合ってる?」

次の問題でも、

「これ、合ってる?」

私は、すぐには答えないことがあります。

ある程度まとまったところまで自分で解いてから、チェックすればいい。

そのほうが、

「自分ではできたと思っていたけれど、ここを間違えていた」

「自信がなかったけれど、ちゃんとできていた」

と、今の自分の力も分かります。

でも、

「先生、できけへん」

と本当に止まってしまったら、対応を変えます。

「ここ読んでみぃな」

それでも難しければ、もう少しヒントを出す。

まだ無理なら、さらに助ける。

教えないのではありません。教えすぎない。

子供が自分で進めるところまで、大人が先に進んでしまわないようにしています。

「合ってる?」を何度も確認する子供については、以前の記事でも詳しく書きました。

▶関連記事:「合ってる?」を繰り返す子供たち|失敗を怖がる子を「挑戦する子」にするには

自分でできるところまで、大人が入り込まない

こうした大人の関わり方は、研究では「自律性支援(autonomy support)」という考え方ともつながります。

これは、

「好きなようにしなさい」

と放っておくことではありません。

子供自身が考えたり、選んだり、取り組んだりできる余地を残しながら、必要な支援はするという考え方です。

近年の大規模な研究でも、親による自律性支援と子供の良好な心理的状態との関連が報告されています。

また、教育研究では、

子供の主体性を尊重すること

と、

大人がルールや方向を示すこと

は、対立するものではないと考えられています。

ここは大切だと思います。

子供を尊重する。

でも、何でも子供任せにはしない。

必要なことは教える。

いけないことには、いけないと言う。

困っていれば助ける。

でも、自分でできることまで代わりにはやらない。

「見守る」と「放っておく」は違います。

「つらいな」は受け止めても、代わりにはやらない

もう一つ、面白い研究があります。

4~6歳の子供を対象にした実験では、難しい課題に取り組んでいるとき、

「悔しいよね」

「そう感じるのも分かるよ」

といった形で感情を受け止めてもらった子供は、感情を否定された子供や特別な反応をされなかった子供より、その後の課題に長く取り組みました。

これも、

「そう言えば必ず我慢強くなる」

という話ではありません。

でも、私はここに大切なヒントがあると思います。

気持ちを受け止めることと、困りごとを全部取り除くことは別なのです。

「できひん!」

「難しいなあ」

ここまではいい。

でも、その次が、

「じゃあ、先生がやったるわ」

である必要はありません。

「ここ読んでみ」

でもいい。

気持ちは受け止める。

そのうえで、もう一度、自分でやってみる余地を残す。

これも私の「いけず」です。

自己肯定感を大切にするからこそ

自己肯定感を大切にすることと、いつでも子供を肯定することは同じではありません。

また、子供の気持ちを大切にすることと、嫌なことや困難をすべて遠ざけることも違います。

子供は、これから先、思い通りにならないことに何度も出会います。

そのたびに、大人が先回りして障害物を取り除くことはできません。

だから、小さな「できない」に出会ったとき、

少し考える。

やってみる。

うまくいかなければ、やり直す。

必要なら助けを求める。

そして、自分で前へ進む。

そんな経験も必要なのだと思います。

実は、大人のほうにも「我慢」がいる

2024年、姪の結婚披露宴でスピーチをする機会がありました。

若い親や、これから親になる人たちに向けて、こんな話をしました。

子供は、知らなくて当たり前。

だから、大人が教えてやらなければならない。

できれば冷静に。

できれば根気強く。

できれば挫けずに、何度も、何度でも。

今も、この考えは変わっていません。

ただ、「教える」というのは、答えを全部渡すことではないのでしょう。

子供がモタモタしている。

大人には答えが分かっている。

やってしまったほうが早い。

それでも、

もう少し、この子に任せてみよう。

と待つ。

考えてみれば、子供に我慢強さを求める前に、大人のほうにも待つ力が必要なのかもしれません。

まとめ|私の「いけず」は、このくらいです

「先生、合ってる?」

もう少し自分でいけそうなら、ちょっと待つ。

「できひん」

それなら、

「ここ読んでみ」

それでも無理なら、もう少し助ける。

本当に困っているなら、もちろんしっかり支えます。

子供を困らせたいわけではありません。

子供が自分でできそうなことまで、大人が先回りしてやってしまわない。

そして、

気持ちは受け止める。でも、困りごとまで全部取り除かない。

私が言う「いけず」は、そのくらいです。

子供のために、ときには大人がちょっとだけ「いけず」になってみてもいいのではないでしょうか。

▶関連記事:自己肯定感だけで大丈夫?|バンデューラの「自己効力感」から考える子供の自信の育て方


この記事を書くために参考にした研究・資料

今回は、「子供を助けないほうがよい」という考えを裏付けるためではなく、大人が課題を代わりに行うこと、子供の自律性を支えること、自己調整、感情を受け止めることなどについての研究を参考にしました。

  • Jeon, J., & Park, D. (2024). Your Feelings Are Reasonable: Emotional Validation Promotes Persistence Among Preschoolers. Developmental Science, 27(5), e13523. DOI: 10.1111/desc.13523
    4~6歳児を対象に、感情を受け止めることと難しい課題への粘り強さとの関係を、観察研究とランダム化実験で検討しています。※研究で示された結果を、そのまますべての子供や家庭に当てはめられるわけではありません。子供の年齢、発達段階、性格、そのときの状況に応じた支援が必要です。
  • Leonard, J. A., Martinez, D. N., Dashineau, S. C., Park, A. T., & Mackey, A. P. (2021). Children Persist Less When Adults Take Over. Child Development, 92(4), 1325–1336. DOI: 10.1111/cdev.13492
    大人が子供の課題を代わりに行うことと、その後の子供の粘り強さについて、観察研究と事前登録実験で検討した研究です。
  • Obradović, J., Sulik, M. J., & Shaffer, A. (2021). Learning to Let Go: Parental Over-Engagement Predicts Poorer Self-Regulation in Kindergartners. Journal of Family Psychology, 35(8), 1160–1170. DOI: 10.1037/fam0000838
    子供が自分で課題に取り組んでいる場面での親の過剰な関与と、自己調整・実行機能との関連を調べた研究です。なお、これは因果関係を直接証明した研究ではありません。
  • Bradshaw, E. L., Duineveld, J. J., Conigrave, J. H., Steward, B. A., Ferber, K. A., Joussemet, M., Parker, P. D., & Ryan, R. M. (2025). Disentangling Autonomy-Supportive and Psychologically Controlling Parenting: A Meta-Analysis of Self-Determination Theory’s Dual Process Model Across Cultures. American Psychologist, 80(6), 879–895. DOI: 10.1037/amp0001389
    238研究、126,423人を含むメタ解析で、親の自律性支援と子供のwell-beingなどとの関連を検討しています。
  • Blume, J., Garcia, G. M., Garcia, M., & Mastergeorge, A. M. (2025). Associations Between Parenting Styles and Child Self-Regulation Skills: A Series of Meta-Analyses. Journal of Family Psychology, 39(7), 885–898. DOI: 10.1037/fam0001379
    62研究を統合し、supportive、suppressive、passiveという養育のあり方と、子供の自己調整力との関連を検討したメタ解析です。

※これらの研究結果を、すべての子供や家庭にそのまま当てはめられるわけではありません。子供の年齢、発達段階、性格、そのときの状況に応じた支援が必要です。

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