サッカー男子W杯を見ていて、ノルウェーのサポーターの応援に目を奪われました。
太鼓の規則正しいリズム。
大勢の人が一斉に声を上げる。
そして、まるでバイキング船のオールをこぐように、同じタイミングで身体を大きく動かす。
画面越しなのに、ものすごい迫力です。
何より、
みんなが一つになっている感じがすごい。
見ているこちらまで、なんとなく身体を動かしたくなります。
そこで気になりました。
人はなぜ、みんなで同じリズムに乗ると、あんなに気持ちよくなるのでしょう。
「同じ動きをする」と、人との距離が近くなる?
心理学では、人と人が動きやタイミングを合わせることを「interpersonal synchrony(対人同期・同調)」と呼びます。
歩調を合わせる。
一緒に手拍子する。
同じリズムで踊る。
合唱する。
こうした「同じタイミングで動く」経験について、多くの研究が行われています。
研究をまとめたレビューでは、他者と動きを同期させることが、相手への親近感や一体感、協力行動などと関係することが報告されています。
もちろん、
「一緒に動けば必ず仲良くなる」
という単純な話ではありません。
相手との関係や、その場の目的、集団への意識などによって効果は変わります。
それでも、スポーツ観戦や祭り、ダンス、合唱などで、
「みんなでやると妙に楽しい」
という感覚には、ちゃんと研究の対象になるだけの意味があるようです。
リズムは、身体を動かしたくさせる
音楽を聴いていると、自然に足でリズムを取ったり、身体を揺らしたりすることがあります。
ノルウェーの応援もそうです。
太鼓が鳴る。
周りが動く。
自分も動く。
この繰り返しが、あの独特の高揚感につながっているのでしょう。
ただし、
「リズム運動をするとセロトニンが出る」
と一言で説明するのは、少し乱暴です。
音楽やリズムと気分、覚醒、運動との関係には、いくつもの仕組みが関わっています。
たとえば、運動中に音楽を聴くことについてのメタ分析では、音楽が気分をよりポジティブにし、運動時の主観的なきつさを軽く感じさせる傾向が報告されています。
つまり、
音楽+身体を動かす
という組み合わせ自体が、人にとって気持ちのいい経験になりやすいのでしょう。
「みんなで歌う」にも、面白い力がある
大声を出すとドーパミンが出る。
歌えばストレスが瞬時に消える。
そこまで単純には言えません。
でも、歌うことについても興味深い研究があります。
成人を対象にした研究をまとめた系統的レビューでは、音楽や歌唱が、気分やウェルビーイングと良い関連を示す研究が多く報告されています。
特にグループで歌うことについては、社会的なつながりやポジティブな感情との関連も研究されています。
スタジアムで何万人もの人が同じ歌を歌う。
同じタイミングで声を出す。
同じ選手を応援する。
あの一体感を、特定の脳内物質一つで説明する必要はありません。
身体・音・リズム・仲間意識が全部重なった経験だからこそ、強烈なのでしょう。
日常でも「リズム+身体」は楽しめる
では、この面白さを日常でも少し味わえるでしょうか。
私は、難しく考える必要はないと思います。
好きな音楽をかけて歩く。
家で軽くステップを踏む。
カラオケで歌う。
家族と一緒にラジオ体操をする。
動画を見ながら筋トレをする。
どれも、ノルウェーサポーターの応援そのものではありません。
でも、
音やリズムに合わせて身体を動かす
という共通点があります。
それだけでも、普通に運動するより楽しく感じる人はいるでしょう。
実際、音楽を伴う運動では、気分や運動体験がよりポジティブになる傾向が報告されています。
一人より「誰かと一緒」が楽しいこともある
そして、もし可能なら一人より誰かと。
家族で同じ動画を見ながら身体を動かす。
友人とカラオケに行く。
ウォーキングの歩調を合わせる。
スポーツ観戦で一緒に手を叩く。
人とタイミングを合わせる体験には、単なる運動とは違う面白さがあります。
ただし、
「オンライン動画の相手と動きを合わせれば、オキシトシンが出る」
とまでは言えません。
画面の向こうの人と同じ動きをすることと、実際に相手と相互作用しながら同期することは同じではないからです。
ここは、無理に脳科学をくっつけない方がいいでしょう。
楽しいからやる。続けやすいからやる。
それで十分です。
ノルウェーの応援を見て思ったこと
あの応援を見て、
「これは究極の脳活だ!」
とまで言う必要はなさそうです。
でも、人間って面白いなとは思います。
同じ音を聞く。
同じタイミングで身体を動かす。
一緒に声を出す。
そして、同じチームを応援する。
それだけで、まったく知らない人同士まで一つになったように感じる。
人は、頭だけで人とつながっているわけではないのでしょう。
身体を一緒に動かすことも、人と人をつなぐ一つの方法なのかもしれません。
次にノルウェーの応援を見る機会があったら、私はたぶんまた画面の前で見入ってしまいます。
そして、誰も見ていなければ……
ちょっとだけ一緒にオールをこぐかもしれません(笑)。
この記事を書くにあたって参考にした研究・資料
・Marsh KL, Richardson MJ, Schmidt RC. Social connection through joint action and interpersonal coordination. Topics in Cognitive Science, 2009.
・Hu Y, et al. The intrapersonal and interpersonal consequences of interpersonal synchrony. Acta Psychologica, 2022.
・Ohayon S, Gordon I. Multimodal interpersonal synchrony: Systematic review and meta-analysis. Behavioural Brain Research, 2025.
・Daykin N, et al. What works for wellbeing? A systematic review of wellbeing outcomes for music and singing in adults. Perspectives in Public Health, 2018.
・Terry PC, et al. Effects of music in exercise and sport: A meta-analytic review. Psychological Bulletin, 2020.
・He X, et al. Effects of music on affective responses to acute exercise: A meta-analytic review and multilevel meta-analysis. Applied Psychology: Health and Well-Being, 2025.
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