昔は、「子供は外で元気に遊びなさい」とよく言われました。
夏休みが終わるころには、真っ黒に日焼けした子供も珍しくありませんでした。
ところが、今は違います。
紫外線はシミやしわだけでなく、皮膚や目への影響もある。日焼け止めを使い、強い日差しを避けましょう、と言われます。
昭和のオヤジまで日焼け止めクリームを持ち歩く時代です。
では、日光浴って、もはやオワコン?
でも、一方で、「ビタミンDのためには日光も必要」と聞きます。
昔は日に当たれ。今は紫外線を避けろ。結局どっちやねん?
気になったので、現在の公的資料や研究を改めて調べてみました。
「日光」と「紫外線」を、まず分けて考えよう
この話をややこしくしている原因の一つが、
「日光=紫外線」
のように考えてしまうことです。
太陽の光には、目に見える可視光のほか、紫外線や赤外線などが含まれています。
そして、太陽光が体に与える作用も一つではありません。
紫外線、とくにUV-Bは、皮膚でビタミンDが作られることに関係します。
一方、明るい光は、私たちの体内時計を調整する重要な手掛かりになります。
さらに、屋外で過ごす時間が子供の近視発症と関係することも分かってきました。
ですから、
「日光浴は体にいいの?」
という一つの問いだけでは、少し大ざっぱなのです。
ビタミンDは、なぜ子供に大切なの?
日光と聞いて、まず登場するのがビタミンDです。
ビタミンDには、腸管からカルシウムなどを吸収するのを助け、骨の形成や維持に関わる重要な働きがあります。
成長期の子供にとって、不足を避けたい栄養素の一つです。
そして、少し変わっているのが、食事から摂るだけでなく、皮膚がUV-Bを受けることで体内でも作ることができることです。
厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2025年版)」でも、日照によって皮膚でビタミンDが作られることを踏まえ、日常生活で可能な範囲の適度な日光浴を心掛けることが示されています。
つまり、現在も、
「日光はできるだけ避けたほうがいい」
という単純な話ではありません。
私も以前、ここを間違えていました
2021年に日光浴について書いたコラムを読み返してみると、こんなことを書いていました。
「紫外線の照射がないと活性型ビタミンDに変化せず、効果が出ない」
これは、現在の記事では訂正します。
紫外線のUV-Bが必要なのは、皮膚でビタミンDが作られる段階です。
皮膚で作られたビタミンDも、食品やサプリメントから摂ったビタミンDも、その後、肝臓や腎臓などで代謝されて利用されます。
つまり、
食事やサプリメントから摂ったビタミンDは、日光を浴びなければ働かない、ということではありません。
5年前の自分の記事を読み返すと、「あらら」と思うところもあります。
でも、こうして新しい知見で確かめ直すことも大切だと思っています。
日本の子供はビタミンDが足りている?
ここで少し気になる日本の研究があります。
日本の大規模出生コホート研究「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」に参加した2歳児4,655人を調べた研究では、血中の25-ヒドロキシビタミンD[25(OH)D]濃度が20ng/mL未満だった子供が24.7%、20~30ng/mLだった子供が51.3%でした。
ただし、ここは数字だけを独り歩きさせてはいけません。
ビタミンDの血中濃度をどこから「不足」「欠乏」とするかについては、基準や目的によって考え方が異なります。
ですから、
「日本の子供の4人に1人がビタミンD欠乏症だ!」
と結論づけることはできません。
それでも、日本の幼児でもビタミンDの低値が珍しいことではない、と考える材料にはなります。
じゃあ、子供はどんどん日に当たればいい?
ここで話をひっくり返してはいけません。
「ビタミンDが大切」=「紫外線をたくさん浴びればいい」ではありません。
世界保健機関(WHO)は、少量の紫外線にはビタミンD生成という利点がある一方で、過剰な紫外線曝露は皮膚や目に悪影響を与えるとしています。
特に、子供・青少年期の過剰な紫外線曝露は、将来の皮膚がんリスクとの関係から注意が必要です。
WHOはUVインデックスが3以上の場合、日陰を利用する、衣服で皮膚を守る、日焼け止めを使うなどの紫外線対策を勧めています。
つまり、
「日に当たるか、当たらないか」ではなく、「強すぎる紫外線を避けながら、屋外で過ごす」
と考えたほうがよさそうです。
外で過ごすメリットは、ビタミンDだけではなかった
今回調べ直していて、私が特に面白いと思ったのが「目」との関係です。
近年、子供が屋外で過ごす時間と近視発症との関係について、多くの研究が行われています。
複数の研究をまとめたメタ分析でも、屋外で過ごす時間が多い子供では、近視を発症するリスクが低くなる傾向が確認されています。
ランダム化比較試験をまとめた研究でも、屋外活動を増やす取り組みによって近視の発症が減ることが示されています。
ただし、すでに近視になった子供の近視進行を、屋外活動だけで止められるとまでは言えません。
そして、ここでも注意したいことがあります。
これは、
「紫外線を目に浴びると近視にならない」
という話ではありません。
屋外の明るい光環境で過ごすことなどが関係すると考えられています。
紫外線と屋外の明るさは、同じものではないのです。
朝や昼の「明るさ」は、体内時計にも関係する
もう一つ、太陽の光には重要な役割があります。
私たちの体には、およそ24時間周期で働く体内時計があります。
光は、この体内時計を外の昼夜に合わせるための重要な情報です。
昼間は明るく、夜は暗い。
当たり前のようですが、この明暗の変化を脳は利用しています。
反対に、夜遅くまで強い光を浴びる生活は、眠りにつく時刻などに影響する可能性があります。
ここでも、
「朝日を浴びる」
↓
「セロトニンが出る」
↓
「それが夜にメラトニンになる」
↓
「よく眠れる」
といった一本線の説明には注意が必要です。
日光、可視光、紫外線、セロトニン、メラトニン、ビタミンD。
それぞれ別の仕組みが関わっています。
大切なのは、昼は明るい環境で活動し、夜は暗くして休むという、自然な明暗のリズムだと考えたほうが分かりやすいでしょう。
結局、子供に日光浴は必要?
ここまで調べてくると、「日光浴」という言葉そのものを少し考え直したくなりました。
わざわざ子供を日なたに座らせ、
「健康のために30分、日光浴!」
と考える必要はなさそうです。
むしろ、
外へ出て遊ぶ。
その中で自然に光を浴びる。
紫外線が強い時間帯や季節には、日陰、帽子、衣服、日焼け止めなどで適切に守る。
ビタミンDは食事から摂ることも忘れない。
このくらいが現代的な付き合い方ではないでしょうか。
2021年の私は、日光浴について、
「日光を適度に浴びて、適度に避ける」
と書いていました。
途中の科学的な説明には訂正したいところがありました。
でも、最後のこの一文は、今でもそれほど悪くなかったようです。
ただ、今なら少し言い換えます。
健康のために日光を「浴びる」のではなく、強すぎる紫外線から身を守りながら、子供が外で過ごす時間を大切にする。
昔の「真っ黒になるまで外で遊べ」でもない。
今の「紫外線は全部避けろ」でもない。
結局、どっちやねん?
どうやら答えは、その間にありそうです。
この記事を書くにあたって参考にした研究・資料
・厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」
ビタミンDの摂取と、日照による皮膚でのビタミンD産生について参考にしました。
・World Health Organization(WHO)“Ultraviolet radiation”
紫外線による健康影響、子供・青少年の紫外線曝露、UVインデックスと紫外線対策について参考にしました。
・National Institutes of Health, Office of Dietary Supplements “Vitamin D – Health Professional Fact Sheet”
ビタミンDの合成、代謝、骨との関係などについて参考にしました。
・日本の「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」参加児を対象とした、2歳児の血中25(OH)D濃度についての研究。
・子供の屋外活動と近視発症について検討した近年のシステマティックレビュー、メタ分析およびランダム化比較試験のメタ分析。
※日光には、可視光、紫外線、赤外線などが含まれ、それぞれ体への作用が異なります。本記事では「日光を浴びれば健康になる」「紫外線を完全に避ければよい」と単純化せず、現在の公的資料と研究から確認できる範囲を整理しました。
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