海、川、プール。それから、ショッピングモールなどにある噴水型の水遊び場。
夏になると、ニュースやSNSで水辺ではしゃぐ子供たちをよく見かけます。
水をかけ合ったり、走り回ったり、波から逃げたり。
どの子も、本当に楽しそうです。
昔は「お盆を過ぎたら海へ行くな」なんて、よく言われたものですが、そんなことを思い出しながら水辺ではじける子供たちを見ていて、ふと思いました。
これだけ夢中になって遊んでいるとき、子供の脳では何が起きているんだろう?
脳に悪いことのようには、とても思えません。
そこで、少し調べてみました。
水遊びは、体だけを使う遊びではない
水遊びというと、泳ぐ、走る、水をかけ合うといった「運動」を思い浮かべます。
でも、子供が受け取っている情報は、それだけではありません。
冷たい水が足に触れる。
水しぶきが顔にかかる。
水面が光る。
波や水の音が聞こえる。
海なら潮の香りがするし、砂浜では足を取られます。川では石の感触や水の流れも変化します。
私も以前、水遊びについて、
「磯や潮風の香り、強い光、水の感触など、多系統の刺激を受ける」
と書いたことがあります。
改めて考えてみると、水辺は視覚、聴覚、触覚など、いくつもの感覚を使う場所です。
しかも、ただ刺激を受け取っているだけではありません。
「波が来た!」―― 子供は判断しながら動いている
海で遊んでいる子供を思い浮かべてください。
「波が来た!」
逃げる。
また近づく。
今度はもっと大きな波が来る。
また逃げる。
本人たちは、もちろん脳のトレーニングをしているつもりなどありません。
でも実際には、
見る → 状況を判断する → 体を動かす → また状況を見る
ということを何度も繰り返しています。
川でも同じです。
「ここは滑りそう」
「こっちは浅い」
「あそこに何かいるぞ」
周囲から入ってくる情報に合わせて、次の行動を変えていきます。
近年、子供の運動と脳について興味深い研究があります。
単純に体を動かすだけでなく、考えたり判断したりしながら体を動かす活動が、抑制制御やワーキングメモリなどの「実行機能」に良い影響を与える可能性が、複数の研究をまとめた分析で報告されています。
実行機能とは、簡単にいえば、
「ちょっと待つ」
「覚えておく」
「状況に合わせて行動を変える」
といった、生活や学習にも欠かせない脳の働きです。
ただし、ここは大切なところです。
「水遊びをすれば実行機能が伸びる」と証明されたわけではありません。
水遊びそのものを対象にした脳研究は、まだ十分とはいえないからです。
それでも、水遊びには「周囲を見ながら判断して体を動かす」という、研究で注目されている活動と共通するところがあります。
海や川のほうが、噴水の水遊びより脳にいい?
では、ショッピングモールや公園などにある噴水型の水遊び場より、海や川のほうが子供の脳にはいいのでしょうか。
これは、今のところ「そうです」とは言えません。
水辺の環境と健康や発達についての研究は増えていますが、海、川、人工的な水辺などを直接比較した研究はまだ多くありません。
噴水型の水遊び場だって、水の冷たさや音、水圧の変化があります。
突然、水が噴き出せば、
「来るぞ、来るぞ……来た!」
と逃げる。
友達と追いかけっこもするでしょう。
十分に楽しい水遊びです。
ただ、自然の海や川には少し違うところがあります。
波の大きさも、水の流れも、足元の状態も一定ではありません。
砂、石、貝、生き物など、思いがけないものにも出会います。
次に何が起きるか、完全には分からない。
だから、子供自身が周囲を見て、感じて、判断しながら遊ぶ場面が多くなる。
「自然の水辺のほうが脳にいい」と決めつけるより、自然には子供が環境を読みながら遊ぶ余地がたくさんあると考えるほうがよさそうです。
楽しい!―― ドーパミンだけで説明していい?
水辺ではじける子供たちを見ていると、もう一つ気になることがあります。
とにかく楽しそう。
「楽しい」と聞くと、脳科学ではすぐに「ドーパミン」という言葉が登場します。
確かにドーパミンは、報酬や動機づけ、学習などに関わる重要な神経伝達物質です。
ただ、
「水遊びは楽しい」
↓
「ドーパミンがたくさん出る」
↓
「だから、脳が発達する」
と一直線につなぐのは、少々乱暴です。
今回調べた範囲では、子供が水遊びをしているときのドーパミン分泌を直接測り、それが脳の発達につながることを示した強い研究は見つかりませんでした。
一方で、「遊び」そのものの重要性については、多くの研究があります。
米国小児科学会(AAP)は、遊びが認知、言語、社会性、感情、自己調整、実行機能などの発達を支える重要な機会になるとしています。
ですから、私は、ドーパミン一つで説明するより、
「楽しくて、自分から夢中になって、考えながら体を動かす」
こと全体に注目したいと思います。
水遊びは、いろいろなことが同時に起こる遊び
こうして見ていくと、水遊びの面白さが少し見えてきます。
水の冷たさを感じる。
音を聞く。
光を見る。
足元の変化を感じる。
走る。
逃げる。
追いかける。
次に何が起きるか予想する。
友達の動きを見る。
そして、笑う。
一つひとつは特別なことではありません。
でも、水遊びでは、感覚、運動、判断、探索、人との関わり、そして「楽しい!」という気持ちが、同じ時間の中で重なっています。
これが、水遊びの大きな魅力なのかもしれません。
もちろん、水遊びなら何でも脳にいい、と言うつもりはありません。
海や川には、溺水、急な増水、離岸流などの危険もあります。
子供が夢中になればなるほど、周囲の大人による安全管理は欠かせません。
でも、安全を確保したうえで、水に触れ、走り、笑い、驚き、自分で次の行動を決める。
水辺ではじける子供たちを見ていると、
「遊ぶ」ということは、思っている以上にぜいたくな脳の活動なのかもしれない。
そんなふうに感じます。
まとめ
夏の水遊びは、単なる暑さしのぎではありません。
子供は水に触れ、音を聞き、周囲を見て、状況を判断しながら体を動かします。
そして、何より、楽しそうです。
だからといって、「水遊びをすれば頭がよくなる」といった単純な話ではありません。
現在の研究から考えると、水遊びの魅力はむしろ、遊び、身体活動、感覚、判断、探索、人との関わりといったさまざまな経験が一度に重なることにありそうです。
ところで、水遊びにはもう一つ気になることがあります。
日光です。
昔は、「子供は日に当たったほうがいい」と言われました。
今は、「紫外線を避けましょう」と言われます。
子供に日光浴は必要なのでしょうか。
次は、この疑問を現在の科学から考えてみたいと思います。
この記事を書くにあたって参考にした研究・資料
・Yogman M, et al. The Power of Play: A Pediatric Role in Enhancing Development in Young Children. Pediatrics. American Academy of Pediatrics.
・子供・青少年を対象とした、認知的要素を含む身体活動と実行機能についての近年のシステマティックレビュー・メタ分析。
・子供の認知・発達とブルースペース(水辺環境)について検討した近年のシステマティックレビューおよびエビデンスマップ。
※水遊びそのものと脳発達の因果関係を直接示す研究は、まだ限られています。本記事では、遊び、身体活動、実行機能、自然環境などについて得られている研究知見をもとに、水遊びという活動の特徴を考えました。
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