「ちゃんと聞きなさい」の前に|アイコンタクトから育てる子供の聞く習慣

大人に

「私に言うとん?」

マクドナルドでのことです。

最近はパネルで注文する店も増えましたが、あれがどうにも苦手な紳士は、昔ながらにカウンターへ向かいます。

注文を終えて待っていると、突然、店員さんが話し始めました。

「ナゲットのソースは……」

ウム!?

後ろの人に話しかけたのかと思って振り返りました。

誰もいません。

カウンターの前にいるのは私ひとりです。

「私に言うとん?」

「はい……」

店員さんは、こちらに顔を向けるでもなく、別の方向を見ながら話していたのです。

ほんのちょっとしたことですが、違和感を覚えました。

もちろん、ずっと相手の目を見つめながら話す必要はありません。

でも、話しかけるときに相手へ注意を向ける。聞くときにも相手へ注意を向ける。

これはコミュニケーションの基本ではないでしょうか。

そして私は、幼児教育の現場でも、この「人に注意を向ける」という行動を長年大切にしてきました。

200以上の発育項目で、最初に見ていたもの

幼児部では、200以上の項目について子供の発育状況をチェックし、一人ひとりのカリキュラムを組んでいました。

そのチェックで、年齢にかかわらず最初に確認していたのが「アイコンタクト」です。

当時、私がアイコンタクトと呼んでいたのは、

ことばをかけている人、話している人の方を見ること。

「相手の目をじっと見続けなさい」という意味ではありません。

なぜ、これを最初に確認していたのか。

長年の経験から、「人に注意を向けて話を聞けること」が、その後のさまざまな学びに関係すると感じていたからです。

では、この経験は現在の科学から見ると、どうなのでしょう。

人の話は、耳だけで聞いているわけではない

人と人が向き合って話すとき、受け取っているのは声だけではありません。

顔の表情、視線、口の動き、身振りなど、さまざまな視覚情報も同時に入ってきます。

特に乳幼児期のコミュニケーションでは、視線は「誰に話しかけているのか」「何に注意を向けているのか」を知る手がかりになります。

子供の発達に関するさまざまな研究では、相手と同じものに注意を向ける「共同注意(joint attention)」と、言葉の発達との関連も数多く報告されています。

つまり、昔の私が考えていた、

「耳だけでなく、相手を見ながら聞くことにも意味がある」

という考え方は、大筋では間違っていなかったようです。

ただし、「目を合わせれば合わせるほど脳にいい」という単純な話ではありません。

「ちゃんと聞きなさい」だけでは、もったいない

では、どうすれば人の話を聞く習慣が身につくのでしょう。

ここで思い出すのが、ロボット教室の子供たちです。

説明をちゃんと聞く。

すると、作り方が分かる。

自分で作る。

ロボットが動く。

できた。うれしい。

この経験がいいのです。

「先生に怒られるから聞く」だけではありません。

聞いたら分かった。
分かったからできた。
できたらうれしかった。
だから、次も聞いてみよう。

そんな経験が積み重なっていきます。

大人が「人の話はちゃんと聞きなさい」と繰り返すだけでなく、「聞いていてよかった」と子供自身が感じる経験をつくる。

生活習慣を育てるうえでは、こちらも大切だと私は考えています。

「こっちを見なさい」より、大人がちょっと動く

家庭でも、できることがあります。

低年齢の子供なら、まず大人の方から働きかけます。

目や顔がこちらへ向いたら、微笑む。

少し大きくなった子供なら、離れたところからいきなり用件を投げるのではなく、まず名前を呼ぶ。

「○○ちゃん」

子供の注意がこちらへ向いてから、

「明日の準備しようか」

と話す。

そして、必要なら、大人の方がフットワーク軽く、ちょっと動いて、子供の視野に入ってもいいでしょう。

子供に「こっちを見なさい」と言うだけでなく、大人の方から子供がこちらを見やすい状況をつくる。

昔から、こうしたことを保護者の皆さんに伝えてきました。

今振り返っても、大切なのは、叱って視線を合わせることではなく、人に注意を向けて聞く経験を、日常の中で積み重ねることだったのだと思います。

アイコンタクトを無理強いしない

ここは、昔より少し考え方を更新したいところです。

人によっては、直接目を合わせることそのものに強い負担を感じる場合があります。

特に、発達特性のある子供の中には、直接視線を合わせることで不快感や強い緊張を感じるケースがあることも報告されています。

ですから、

「目を見ない=話を聞いていない」

と決めつけるべきではありません。

目そのものではなく、顔を見る。体を相手に向ける。話に注意を向ける。

その子なりの「聞いているサイン」があるかもしれません。

私自身も、昔の「アイコンタクト」という言葉を、今ならもう少し広く捉えたいと思います。

成功した瞬間を逃さない

アイコンタクトは、単なる礼儀作法ではありません。

そして、「目を見なさい」と強制すれば身につくものでもありません。

相手に注意を向ける。

話を聞く。

分かる。

やってみる。

できる。

うれしい。

そんな経験の積み重ねが、「人の話を聞こう」という習慣につながっていきます。

幼児部で多くの発育項目をチェックするとき、私たちは、なぜ、最初にアイコンタクトを確認していたのか。

当時は経験からそうしていました。

長い時間を経て、科学の知見と照らし合わせてみると、その経験にも、それなりの理由があったようです。

そして、もう一つ。

成功した瞬間を逃さず、ときどき言葉にして気づかせる。

「ちゃんと聞いてたから、できたね」

「説明を聞いてたから、すぐ分かったね」

毎回言う必要はありません。

でも、「できた!」という瞬間に、その成功と、その前にあった行動を、ときどき結びつけてあげる。

聞いたから分かった。
分かったから、できた。

子供自身がそのつながりに気づけば、「聞いてよかった」という経験になります。

「ちゃんと聞きなさい」と言う前に。

そんな小さな成功体験を、一つずつ増やしてみませんか。

この記事で参考にした研究・資料

  • Çetinçelik M, Rowland CF, Snijders TM. Do the Eyes Have It? A Systematic Review on the Role of Eye Gaze in Infant Language Development. Frontiers in Psychology, 2021.
  • Lalonde K, Holt RF. Development of the Mechanisms Underlying Audiovisual Speech Perception Benefit. Brain Sciences, 2021.
  • Stuart N, Whitehouse AJO, Palermo R, et al. Eye Gaze in Autism Spectrum Disorder: A Review of Neural Evidence for the Eye Avoidance Hypothesis. Journal of Autism and Developmental Disorders, 2023.

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