「先生、でけへん」
ロボット教室では、毎月こんな声が聞こえてきます。
私が担当している教室では、子供たちはテキストを見ながら、ブロックでロボットを組み立てます。授業が進むにつれて、作りかけのロボットや部品を手に、子供たちが次々とやってきます。
「先生、できません」
「わかりません」
「これ、どうするの?」
中には、何も言わず、作りかけのロボットを持って私の前に立つ子もいます。
その多くは、テキストをもう一度、ていねいに確認すれば、自分で解決できる内容です。
そこで私は、以前よくこう声を掛けていました。
「テキスト、しっかり読も」
ところが、それだけでは子供たちはなかなか動きません。
「読んだ」
「ちゃんと書いとう通りにやった」
そう言って、困った顔のまま立っています。
そこで、声の掛け方を変えました。
「○ページの下の写真を、よう見てみ」
「その横の説明も、ちゃんと読みよ」
すると、止まっていた子供の手が、少しずつ動き始めます。
「読め」と言われても、子供は読めないことがある
子供たちがテキストをうまく使えない理由は、一つではありません。
部品の名前を読みながら、どの部品なのか分からなくなってしまう子がいます。部品の一覧表を渡していても、名前と形を結び付ける途中で混乱してしまう子もいます。
テキストをじっくり読むことに慣れておらず、説明書きを十分に読まない子もいます。早く組み立てたい気持ちが強く、テキストをざっと見ただけで手を動かし始める子もいます。
本人は読んだつもりでも、途中で思い込みが入り、実際に組み立てるとうまくいかず、そこで止まってしまうこともあります。
年齢も違えば、発達の段階も違います。その日の集中力や気分によっても、子供の様子は変わります。
だから、「読むのが面倒だから」と、ひとまとめにすることはできません。
ただ、子供たちの様子を見ていると、よく出会う状態があります。
どこを、どのように確認すればよいのかが、まだ分かっていない。
そんな子に「テキストを読もう」だけでは、範囲が広すぎるのです。
そこで、
「○ページの上の方の写真、よう見んねんで」
「となりの説明も、ちゃんと読みよ」
と、見る場所と読む場所を具体的に、小さい範囲で示します。
すると、写真と作りかけのロボットを見比べ、部品の向きを変えたり、取り付ける場所を確かめたりし始めます。
そして、自分で間違いに気づく。
「あっ、できた」
私は、こんな経験を少しずつ積み重ねてもらいます。
「できた」が、次の行動につながっていく
最初から、一人でテキストを読み進められるわけではありません。
はじめは、少し分からないことがあるだけで、
「先生、でけへん」
「わかりません」
と、すぐに助けを求める子もいます。
でも、見る場所や読む場所を具体的に示し、そこから先は自分で確かめてもらう。そんな経験を重ねていると、子供の行動は少しずつ変わっていきます。
すぐに先生を呼ぶ前に、テキストを開く。
写真とロボットを見比べる。
説明を読み直してから、もう一度試す。
「ここを見れば分かるかもしれない」
「自分で直せるかもしれない」
そんなふうに動けるようになっていきます。
そして、子供が自分で動き始めたら、今度は大人がしゃべりすぎないことも大切です。
子供が写真を見比べ、部品を触り、夢中になって考えている。そんなとき、私は黙って見守ります。
答えをすぐに教えるのではなく、必要なら見る場所だけを示す。そして、自分で確かめられそうなら任せる。
教室で子供たちを見ながら、私はこの距離を大切にしてきました。
「先生、ここがわからへんねん」への変化
やがて、質問の仕方そのものが変わってくる子がいます。
最初は、作りかけのロボットだけを持って、
「先生、でけへん」
とやって来ていた子が、テキストとロボットの両方を持ち、真剣な表情でこう聞くようになります。
「先生、ここがわからへんねん」
私は、この変化がとても好きです。
「全部分からない」から、「分からないところが分かる」へ。
テキストを見て、自分で考え、試してみた。そのうえで、どこから先へ進めないのかを伝えに来ています。
質問すること自体が悪いのではありません。
「先生に聞くな」でもありません。
私が子供たちに身に付けてほしいのは、分からなくなったらすぐ答えをもらうことではなく、まず自分で確かめて、それでも分からなければ、
「ここが分からない」
と聞けることです。
その質問なら、その子が自分でできるところまでやってきたことが伝わります。
私が教室で育てたい「読む力」
「読む力」というと、文章を正確に読んだり、内容を理解したりする力を思い浮かべるでしょう。
もちろん、それは大切です。
でも、ロボット教室で私が子供たちに身に付けてほしい「読む力」は、もう少し実践的です。
テキストのどこを見るのか。写真のどこを確かめるのか。説明と自分が作ったもののどこが違うのか。
必要な情報を探し、それを自分がやっていることと照らし合わせ、もう一度試してみる。
ロボット作りでは、「読む」ことが、そのまま次の行動につながります。
ですから、
「ちゃんと読め」
ではなく、
「ここ、読んでみ」
と声を掛けます。
全部を教えるのでもない。全部を一人でやらせるのでもない。
自分で続きを進められるように、ヒントになる小さな足場をつくる。
あとから調べてみると、教育研究には、こうした支援を考える「スキャフォールディング(足場かけ)」という考え方がありました。
スキャフォールディングでは、ただ手伝えばよいわけではありません。子供の理解や様子に応じて必要な支援をし、自分でできるようになれば、その支援を少しずつ減らしていくことが大切だとされています。支援を減らしながら、学びの主導権を子供自身へ移していくわけです。
そう考えると、私が教室でやってきた、
「○ページの写真、よう見てみ」
「その横も読んでみ」
という声掛けも、子供が自分で先へ進むための小さな「足場」だったのでしょう。
そして、自分で動き始めたら、しゃべりすぎない。
「でけへん」の、その先へ
子供たちがテキストをうまく使えない理由は、一人ひとり違います。
部品の名前で混乱する子。読む前に手を動かしたくなる子。読んだつもりでも、思い込みで先へ進んでしまう子。
だから、ただ「しっかり読みなさい」と言うだけでは、動けないことがあります。
そんなとき、
「○ページの写真、よう見てみ」
「横の説明も読んでみ」
と、次に見る場所を少しだけ具体的にする。
そこで、子供が自分で間違いに気づいたら、もうこちらの出番はありません。
「あっ、できた」
その声を聞いたら、また次へ。
そんな経験を重ねるうちに、
「先生、でけへん」
だった子が、
「先生、ここがわからへんねん」
とやって来るようになる。
私は、そんな変化を教室で何度も見てきました。
「分からないところが分かる」。
そこまで来れば、「先生、でけへん」と言っていた頃から、ずいぶん前へ進んだことになります。
大きな成長です。
この記事を書くにあたって参考にした研究・資料
Wood D, Bruner JS, Ross G
The role of tutoring in problem solving.
Journal of Child Psychology and Psychiatry, 1976.
→ PubMed
van de Pol J, Volman M, Beishuizen J
Scaffolding in Teacher–Student Interaction: A Decade of Research.
Educational Psychology Review, 2010.
→ Springer Nature
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