陽動作戦③ 京都ぶぶ漬け作戦――子供の話は聞く。でも、話は逸らさない

子供・教育

「先生、今日来る時、家出たらムシおってん」

「僕な、僕な、弟おんねん」

「うち偉いねんで。ピーマン食べれんねん」

小さな子供たちは、いろんな話を聞かせてくれます。

子供が話す。大人が聞く。これは基本です。

でも、そろそろトレーニングを始めたいのに、話が終わらない。そんなとき、どうしましょう。

今回は、ちょっと風変わりな名前の「京都ぶぶ漬け作戦」をご紹介します。

「~したらどうどす」

2011年のコラムには、こんなことを書いています。

「京都ぶぶ漬け作戦:今日こんなことがあってね、などと話題を逸らせて逃げる子に、和やかな表情で『~したらどうどす』『~したらどうどす』と優しく言い続ける。緩やかな誘いにもかかわらず、選択の余地はないと諦め…。」

京都のぶぶ漬けといえば、「そろそろお帰りになっては」という意味を込めた、遠回しな誘いとして知られるお話です。

もちろん、実際の京都の人がみんなそんな言い方をするわけではありません。

そのイメージを借りて、教室での対応に名前をつけたわけです。

穏やかに、優しく。

でも、いつまでもおしゃべりを続けるわけにはいきません。

まず、子供の話を聞く

個別指導塾では、授業の最初に1〜2分ほど四方山話をすることがありました。

ちょっとした会話でフレンドリーな雰囲気をつくってから、

「さぁ、始めよう。お願いします」

と、授業に入ります。

一方、2歳から12歳を対象とした頭脳開発教室では、まず挨拶から。

子供が何か話そうとすれば、まず聞きます。

虫を見つけたことも、弟のことも、ピーマンを食べられたことも、子供にとっては先生に聞いてほしい話なのです。

そして、ひとしきり聞いたら、

「わかった。じゃ、始めようね」

ここまでは、いつもの流れです。

ところが、まだ話そうとする子もいます。

話が尽きないのか、それとも今日のトレーニングを始めたくないのか。

その様子を見ながら、京都ぶぶ漬け作戦の出番を考えます。

話を聞くことと、話に引きずられることは違う

子供の話を聞くのは、大切なことです。

でも、話を聞くことと、いつまでも話に付き合うことは同じではありません。

「じゃ、始めようね」と伝えても、また別の話が始まる。

そこで大人まで話に夢中になってしまえば、予定していたトレーニングは、なかなか始まりません。

そんなときには、話を遮って叱るのではなく、和やかな表情で課題へと誘います。

「~したらどうどす」

また話が始まっても、

「~したらどうどす」

優しい言い方ですが、取り組んでほしいことは変わりません。

もっとも、話が続く理由は子供によって違います。どうしても聞いてほしいことがある場合もあれば、課題に何か困難を感じている場合もあるでしょう。

だから、言葉だけを真似して、誰にでも同じ対応をすればよいわけではありません。

子供の話を聞いたうえで、今は活動へ戻す方がよいと判断したときの作戦なのです。

優しさと、方向を示すことは両立できる

ここで、最近の教育研究を一つ紹介しましょう。

2025年に発表された94研究をまとめた分析では、教師が子供の自主性を支えることと、目標や取り組み方を明確に示すことは、互いに補い合う関係にあると報告されています。

つまり、子供の気持ちを大切にすることと、大人が必要な方向を示すことは、必ずしも対立しないのです。

京都ぶぶ漬け作戦にも、通じるところがあるように思います。

子供の話は聞く。

でも、トレーニングを始めるときには、始める方向へ誘う。

穏やかに接することは、何でも子供の言うとおりにすることではありません。

大阪のおばちゃん、芦屋マダム、そして京都ぶぶ漬け

これまで、三つの陽動作戦をご紹介してきました。

大阪おばちゃん作戦は、乗り気でない子供に、明るく元気に働きかける。

芦屋マダム作戦は、別の課題に変更しようとする子供に、笑顔で毅然と課題を示す。

そして京都ぶぶ漬け作戦は、話題を逸らしてなかなか始めようとしない子供に、穏やかに本題へ戻るよう誘う。

どの作戦にも、使いどころがあります。

同じ子供でも、その日の様子や課題によって、対応を変えることがあります。

もちろん、予定を変更することも、その日は見送ることもあります。

大切なのは、作戦を成功させることではありません。

何をどうすれば、この子の力をよりよく伸ばせるのか。

そのために、指導員がいろいろな引き出しを持ち、使い分けることです。

子供の話を聞く。

必要なときには、活動へと誘う。

そして、変えるべきところは変え、変えない方がよいところは変えない。

大阪のおばちゃんも、芦屋マダムも、京都ぶぶ漬けも、みんなそのための作戦でした。

この記事で紹介した研究・資料

子供の自主性を支えることと、明確な指導を組み合わせることに関する研究
教師の自主性支援と、目標や取り組み方を明確に示す指導について、94研究をまとめて分析した2025年の研究。
→ 研究論文(Educational Psychology Review)

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陽動作戦② 芦屋マダム作戦――子供に合わせる。でも、合わせすぎない

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