「キリのいいところまでやってから終わりなさい」
子供に、そんな声をかけることがあります。
たしかに、途中で投げ出すより、最後までやり切ることは大切です。
でも、「途中で終わる」ことにも意味があるのではないか。
ロボット教室で、ある小学1年生の男の子を見ながら、そんなことを考えたことがあります。
「まだやりたい」と、なかなか終われない
タローちゃん(仮名)は、自分でやりたい気持ちの強い子でした。
ロボット教室では、基本的に2回の授業で一つのロボットを完成させます。早く完成すれば、そこから自分なりの改造にも挑戦できます。
その月の2回目の授業。
タローちゃんのロボットは、まだ7割くらいの出来でした。
自分でやろうと頑張っていたので、こちらも必要なときに少し手伝う程度にしていました。
やがて授業終了の時間になりました。
「もう時間だよ。あとは家で完成させよう。できなかったら、また持っておいで」
ところが、タローちゃんはやめません。
まだやりたい。
でも、もう終了時刻です。他の生徒は片づけて、どんどん帰っていく。タローちゃん、だんだんイライラ。
「もう時間やで」
そう声をかけながら、ふと思い出したのが「ツァイガルニク効果」でした。
「途中で終わる」は、悪いことばかりではない
ツァイガルニク効果とは、簡単にいえば、終わったことよりも途中で中断したことの方が記憶に残りやすい、という現象として知られています。
名前の由来は、心理学者ブルーマ・ツァイガルニクが1927年に発表した研究です。
ただ、その後の研究では、いつでも同じように再現されるわけではないことも分かっています。
2020年のレビューでも、ツァイガルニク効果は有名な現象である一方、その成り立ちや再現性については単純ではないことが整理されています。
ですから、「途中でやめれば、必ず記憶力が上がる」という話ではありません。
それでも、やりかけのことが頭に残ったり、「続きが気になる」と感じたりする経験なら、多くの人に覚えがあるのではないでしょうか。
タローちゃんに「時間で終わる」を伝える
タローちゃんには、その後も時間通りに終わることの大切さを繰り返し伝えました。
「やりたいことを、いつまでもやっているのは幼稚園児やで。タローちゃんは賢い小学生なんやから、時間が来たら終わろう」
そして、ツァイガルニク効果の話もしました。
「途中で終わっても大丈夫。続きがあるから、また楽しみにできる。ツァイガルニク効果っていうのもあるんやで」
「ツァイガルニク効果」。小学1年生には少し難しい言葉ですが、意味をかみ砕いて話せば大丈夫です。
「途中で終わる=残念」ではなく、「続きは、また楽しめる」。
そんな受け止め方もできることを伝えたかったのです。
何度もそんな話を続けているうちに、タローちゃんは時間が来れば普通に作業を終えられるようになりました。
「キリのいいところまで」が、いつも正解とは限らない
子供が夢中になっていると、
「せっかくだから、キリのいいところまで」
と思うことがあります。
それでいい場面もあります。
でも、それを続けていると、「いつも自分が納得するところまでやる」ことにもなりかねません。
生活には時間があります。
遊びを終える時間、宿題を終える時間、お風呂に入る時間、寝る時間。
学校でも、授業が終われば次の時間へ移ります。
だから、何かを最後までやり切る力と同じように、途中でも時間が来たら気持ちを切り替える力も身につけてほしい。
ロボット教室でタローちゃんに伝えたかったのは、そんなことでした。
大人にも「途中で終わる」は使える
これは子供だけの話でもありません。
仕事でも家事でも、
「ここまで終わらせてから」
と続けているうちに、予定よりずいぶん時間が過ぎてしまうことがあります。
一方で、未完了の仕事が多いと、それが頭から離れず、仕事を離れた時間にも仕事のことを考え続けてしまう場合があります。
2026年に発表されたメタ解析でも、未完了の仕事と、仕事を離れた時間の仕事関連の思考との間に関連がみられました。
つまり、「途中でやめればいい」でも、「必ず最後までやればいい」でもないのでしょう。
次に何をするか分かるところで区切る。
続きが楽しみになるところで区切る。
予定の時間だから区切る。
そんな区切り方もありそうです。
「続きは、また今度」でいい
「最後までやりなさい」
「キリのいいところまでやりなさい」
私たちは、ついそんな言葉を使います。
もちろん、最後までやり切る経験は大切です。
でも、途中で終えることは、失敗でも投げ出すことでもありません。
時間が来たら、そこで終わる。
そして、「続きは、また今度」。
そう思えることも、一つの力ではないでしょうか。
タローちゃんを見ながら、そんなことを考えました。
この記事を書くにあたって参考にした研究・資料
MacLeod CM
Zeigarnik and von Restorff: The memory effects and the stories behind them.
Memory & Cognition, 2020.
→ PubMed
Ghibellini R, Meier B
Hope of success relates to the memory for unsolved compared to solved anagrams.
Quarterly Journal of Experimental Psychology, 2025.
→ PubMed
Wendsche J, Weigelt O, Syrek CJ
Unfinished work tasks and work-related thoughts during off-job time: meta-analysis of the Zeigarnik effect in a work-recovery context.
Anxiety, Stress, & Coping, 2026.
→ PubMed
Zeigarnik B
Das Behalten erledigter und unerledigter Handlungen.
Psychologische Forschung, 1927.
→ Springer
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